- C 888話 王国の行方 8 -
暫く試験管の中で、漂ってた。
腕を曲げて、胸元に置き。
膝も腰も曲げて、丸くなる。
胎児のように羊水の中にあるように――目をとじて、ゆっくっりと寝る。
寧華も皇族として、皇太后以上の英才教育が施されたひとり。
双子だから当然と言えば当然だ。
瞼の裏には百年以上前の情景だ。
カリスマを備えた寧華と、実直で努力家の姉の姿。
自身は一度見れば、体得できる特殊スキルがあった。
まあ、これが天才なのだろう。
乗馬の手解きを受けることなく、人馬一体となれる素質。
剣に弓、鉄砲など兵法まで卒なくこなして見せた。
◇
気が付けば、
姉から疎まれた寧華があった。
だから、継承権の返上を願い出た。
他人から受ける評価と言うのは残酷なものだと思う。
「あれはデキがいい」
と。
比較対象が双子だと、片割れである場合が。
それで要らぬ誤解を招くんだ。
寧華さんも、その犠牲者だ。
何でも出来る反面、熱が籠らない。
飽きっぽいわけじゃないけど。
そうだねえ、見てくれは悪いんだけど良く出来たと自己で満足がいったものが否定される。
そんな感覚は無いだろうか。
折角、打ち込んでたのに。
「キミなら、コレが合うだろう」
って勝手にレールを敷かれたような、シーンだ。
乗馬は嫌いではない。
ただ、生まれたばかりの子馬の世話を焼きたかったのに。
誤解されて...
ああ、アレは彼女が迂闊だったのだ。
勤勉か?と、問われると。
サバイバルしながら山々の動植物を追いかける方が性に合っている。
英雄譚に心躍らせてたら、大人たちが兵法書を読破したと勘違いした。
広げた地図は植物の為のものだったのに、だ。
こうやって誤解されまくった。
夢心地が悪い。
何度も寝返りする。
足は閉じたままなんだけど――ふと、視線に気が付いて。
ゆっくりと瞼を持ち上げると。
ハナ姉が、覗き込んでた。
未だ、酔っぱらってた。
どんだけ強い酒を呑んだんだ。
「なんか気持ちよさそう」
水槽の中なのに身じろぐというのも新鮮か。
いや恐怖で顔が引きつってる。
「あー!!!」
ボクがハナ姉を見つけて、声を挙げた瞬間。
この時、ボクは彼女を探してたんだ。
「やべ、見つかった。どこの誰かは知らぬが、かわいい蕾と花弁...拝ませてもらったよ!」
身内である寧懿さんにお道化て、見せる分には恥ずかしくなかったけど。
いざ、ひとりで漂ってると。
なんだろうねえ。
腰のあたりがぞわぞわするようだ。
こう、腕で胸元を必死に隠しながら...急に、寒くなったような気がした。
「それが恥ずかしいだよ!?」
逃げた義姉を追って、試験管脇へ。
溶液の中にある寧華さんに諭した。
ま、悪戯されるような造りの容器じゃないけど。
いやいや。
よく見たら――ハナ・コメ参上!――とか、マジックインキで書かれてる。
うわ~ 油性じゃん、コレ。