- C 887話 王国の行方 7 -
ま、そりゃそうだわな。
試験管の周りには大層な機械が繋がってて。
遠巻きに姉を探す子供があった。
死体袋へ逆戻りとなった寧景さん。
それを見送った寧懿さんは複雑だった。
そんで...
「な、なんで、なんで?!」
まあ。
取り乱すわな。
手を振る幼女に、惚ける寧懿さん。
いあ、手を振り返してる。
『どうだ、寧懿。ふっふふ~ん、これが私の身体なんだぞ! そして見よ、みごとなピンク色なのだ』
おい!
部屋にあるすべての人々から、同じツッコミが入る。
女の子が花弁を広げるんじゃありません。
◇
まだ、状況が飲み込めてない寧懿さんだが。
百以上の歳の差がある姉妹で、かつ、見たこともない幼女が...。
いや、海エルフ族の15歳と言うとあどけなさが残る――ケツに蒙古斑がびっちり残ってる感じの幼児体形なもんで。
ヒト族で言うなら、正に幼女然であるのだ。
で、寧懿さんなんかは。
「ヒト族で言えば、そうですねえ。ざっと三十路手前ってトコでしょうか?」
ほらって試験管の中から同意を求める声がした。
黙ってろ、痴女。
「ほーん、見た目はボクと大差ないのにね」
「あるだろ?! メルも言ってやれ、そして現実を思い知らせてやるがいい」
モルゴースさんのは棘が痛い。
分かってるよ。
凹凸の差と、年齢詐称疑惑とかって。
「マルちゃんは可愛いから、全然、問題な...」
グーで殴られてた。
モルゴースさんが挙げる筈だった手は、グィネヴィアさんのもの。
「マルの邪魔すんじゃねえ!!」
おっと、忘れてた。
ボクは“マル印のポーション”を量産する仕事があった。
いや、あれは一段落ついてた。
では、仕事とは?
「お前のことは姐さんから頼まれてんだ。あの人は“よろしく”としか言わなかったが、きっちり仕事すれば、大好きなパンケーキを作ってやるから。寧華さんのポーションを取り替えてやって欲しい」
そう。
臍のゴマをほじったり、花弁のスミを擦ったりしてたんで。
寧華さんの水槽はゴミが浮いてたりしてた。
弄り過ぎなんだよ。
黙って身体と魂がなじむまで待ってろってんだ。
聖櫃のメディックルームに稼働出来ずにあった、メディカルポッドはボクが修理した。
言ってしまうと単純なんだけど。
精霊炉と同じ理屈――動力になってくれる“精霊”と契約が結べなかったからだ。
で。
メルちゃんを代理人として、精霊を強制召喚し。
嫌がる精霊を無理やり重労働に就かせたわけだ。
炉に行けばバンシーが如き悲鳴をあげる悪霊となっている。
「じゃ、ろ過装置を稼働しますねえ~」
ごうんごうん機械音が鳴り響く。
濾過されたポーションは、新しいマナを取り込んだ水溶剤と共に再び試験管に戻される。
棄てるのが勿体ないからなんだけども。
ボク個人的には...
自分の一部なのだから、最後まで面倒見ろよ。
なんだよね。
「――実のところなのだが?」
試験管の中で、乳首を摘まむ寧華へ。
グィネヴィアさんが声を掛けた。
乳首遊びには目を瞑って。
「本当に玉座には就かないのか? 婿取りなんかは正直、今、それほど重要ではないだろう」
聖櫃と魔界という二つの勢力がバックアップする。
神輿は軽い方がいいとは言うけども。
興したばかりの国家だ。
経営する者は凡庸では難しく思える。
例えば、劉備の次代後継のような暗愚とかは――。
「こういうのは摂州王とか、寧懿なんかが御似合いだと思うんだけど...ね」
これは、寧華さんの本音のようで。