- C 885話 王国の行方 5 -
カンバーランドの病院に収容されてた患者は、沖合に移動してた布哇浮島へと移送された。
搬入先となった浮島では、聖櫃騎士団総出で受け入れる。
「まあ、思ったよりも病床が足りないけど」
モルゴースさんが周囲を見渡してる。
ざっくりした感想を言えば、収容したというより――兎に角、置いてある。
まるで野戦病院みたいな状態だった。
そりゃあねえ。
収容する手はずだった医務区域なんだけど。
かつて浮島内で反乱があって、モルドレッド卿とその指揮下の使徒騎士団らで立て籠もった事がある。
ふぅ~
あれね。
実は未だ修理もしてないんだわ。
あっちこっちで攻撃、防御の戦闘痕跡があってね。
医務区域まで手が回らなかった...
と、いうのが。
すっごくすっごく、本音な部分のデリケートな話。
◇
寝返りをうった魔術師が、ストレッチャーから転げ落ちた。
パンツが丸見えで膝抱えてた酔っ払いのハナ姉が何気に大笑いしている。
うーん。
筋も、沁みも見えてるんだが。
ボクの義姉は気が付いていないようだ。
酒は呑んでも、呑まれるな...だな。
ボクは消毒液を数本抱えて、走ってた。
スリッパがきゅぽきゅぽ鳴ってるのがすっごい、気になるんだけど。
サイズが合ってないから、かも。
「さて、ここに取り出したるは~」
グィネヴィアさんが、真っ赤な彩の小瓶を掲げてる。
そこへ群がるゾンビども。
いや、もとい。
食中り患者どもだ。
「この水剤はなにか御分りか?! そう、ハイポーションのソレである!!!」
拍手かもしれない音が響く。
女王派から派遣された看護師なども、その場にいるんだけど。
彼らは血のように赤い液体を一瞥して、真っ青になってた。
ついで、ひきつった表情で避けてる様子。
これはまた、ずいぶんと色分けされたもんだ。
一般的に。
栄養ドリンクの上位版みたいな“ポーション”の彩は、緑色で統一され。
上位で青、最上位で紫へと段階を踏む。
まあ、その流れからしたら。
当然、真っ赤だって無くもない筈なんだけど。
戦時中に嫌と言うほど“赤”を見たのだ。
赤い色のポーションが『血じゃないか』って疑うのも無理もない。
「はい、これは試供品なんだな、これが!!」
悔しがるゾンビたち。
ハナ姉は方々にてパンツを見せ――膝を抱えてケタケタ爆笑して回ってるんで。故意に痴女に成ってる訳じゃあない。「あっつい」って呟いて、スカートを脱いだのは一度や二度では無いらしい。
「実験台の希望者を募るよー」
並んで―って聞こえた。
モルゴースさんが聖櫃の倉庫から“魔女の窯”を見つけ出し。
調合にメルちゃんとグィネヴィアさんが参加して――魔力注入になぜかボク。
「なんで、重要ポジション?!」
「マル印の特性ポーション、なんか響きがよくね?!」
えー。
それ昔、グミ作ったら。
『なんかマルを甘噛みしてる感じがする』って不評だったんだよね。
病床にあるヴィヴィアンさん曰く、
「んな、リアルな触感にするからだよ。汁をすするようにすれば問題ねえだろ?」
その汁すするも、ちょっと嫌なんだけど。
ゾンビの喉が鳴った気がした。
◆
城州王・寧正の下に。
浮島の情報が持ち込まれた――東洋王国では南鳥浮島の所在も、創作中なんだけど。
すべての浮島が調査対象になっているという、報せも彼の下に届けられてた。
「なるほど、所在か」
調査対象が“白服”に関連するのではと、先走ってたが。
クイーンズランドからの報せを受けて納得した。
「所在不明の浮島があるという事か」
東大陸が地固めに奔走している理由も察し。
改めて三公同時蜂起の背景に思慮する。