- C 884話 王国の行方 4 -
「量産化された統一規格には大きな問題がある」
いわゆる最適化という平均化だ。
飛びぬけたものを異質として排除する傾向があった。
魔法使いにも個性はある。
均一化された錬金製品にも個性はあるけど、も。
最適化された範囲であるならば、個性の多様は認められてた。
あくまでも規格の範囲内、である。
「治癒魔法も最適化されたら、治せる範囲が狭くなる」
ああ。
なるほど。
「ポーションも、数百年前の規格外なら」
食中りへの効果は瞬時に治してた可能性。
じゃ、今の医療とは?
「そりゃ、泉州王殿と...その実妹、身内の方々と」
茄子みたいな顔色の泉州王さんが首を振った。
辛そうな様子だけど。
「女王派には、同じ医療がみなに施されるよう」
咳込んで吐血。
あら、あらあら...
「やぶ医者に診せるから、こうなる」
教諭の講義はまだ継続中だった。
◇
「――要するに、規格を統一したせいで、食事療法も薬物治療も水準が落ちている。基本的に、労働者階級とその上位たる特権階級とでは、受けられる医療行為は大きく違ってくる...」
世界の中心である欧州は顕著だ。
300年前では当たり前の高等治癒魔術は、教会の奇跡として存在し続けている。
それが格差なのだけど。
「残念ながら、錬金術という産業革命によって、ナーロッパ以外の国は規格外は是としない考えが当たり前のように敷かれてしまった。ポーションの効き目が薄いのは其処に、上位ポーション、最上位ポーションというレベルの差があるからだ」
グィネヴィアさんの手に2本の小瓶がある。
持ち方は危なっかしいけど。
口元が急に細くなるガラス瓶は、どこかで見たことがあるような。
「この小さな栄養ドリンクにしか見えそうにない...ああ、それ。エサちゃんにひとつあげよう」
気前よく小瓶を与えた。
きゅぽんって封を解いて呑むエサ子。
あー
エサ子が飲み干した後だけど。
僅かに光った彼女に微笑みを浮かべる、グィネヴィア教諭殿。
「どうだ?」
「甘かった」
甘かったんか。
「それはな、最上位ポーションって言う蜂蜜入り栄養ドリンクだ」
は?!
ほ、ほら、泉州王さんも真っ白になって――。
「うむ、ぶっちゃけると...薬草を煮詰めても、魔女が巨釜でぐつぐつ、ことこと...ヤってた頃のような。治癒水溶剤は錬金術をもってしても再現できなかった。まあせいぜい気休めだが、自己免疫と治癒能力の補助ドリンク程度の効果しか」
それを詐欺と言わんのか?!
ボクの叫びは、治療中の泉州王さんに伝染った。
「そうだ、詐欺だ。間違いなく詐欺だよ」
で。
グィネヴィアさんは、どうしたいと?
「んにゃ、先生はあたしらにどうしたいのかって、問うてるんだよ」
エサ子が遮った。
ボクの鼻を小突いて。
「えっと...」
「医療サービスを聖櫃で受けてみないか?」