- C 881話 王国の行方 1 -
――ここは南洋王国の西方・エクスマウス沖。
何もない海のど真ん中で、事件?いや、この場合は事故が起きた――。
モニター艦として産声を上げた軽巡洋艦の艦尾構造物から火柱が昇った。
続いて激しく揺れて、乾舷間際でも大爆発。
南洋王国が放った“裁きの炎”は、南部方面より以南となる海へ堕ちた。
二次、三次と続けて連鎖的に生じた小さな暴発もあって。
南鳥浮島で建造された船は、自力で航行も出来ないほどの深刻なダメージを、僅か数十分で蓄積していったのである。
幸い、曳航してくれる護衛している艦艇はあったんだけど。
マーカスから実験結果を収集するために同行してた、科学者たちにも甚大な被害が出てた。
死者、7名。
負傷者、29名。
ダメージコントロール中の行方不明者、55名。
◇
南方方面以南の海上では、激しい閃光と熱線が発生し。
海上は瞬時に気化して蒸発。
海底まで見える大きな穴を穿った後に、巨大なキノコ雲が雷雨も伴って発生した。
西大陸の南部海岸線では、最大7メートルに達する高波を観測した。
東大陸・カンガルー島では、海兎族の集落が流される災害となった。
これらの攻撃により、ドーンフォレスト城と百万人都市が消える筈だった。
城州王は報せを受けてあおってた盃を、壁に叩きつけている。
同じ報せを受けた皇太子は、玉座の間を見渡しながら。
最奥に鎮座する豪奢な椅子に一瞥。
短く息を吐きながら蹴り飛ばして破壊してた。
《これで、仮王宮ネズミが居ることが分かった》
皇太子の腹の中。
魔女の遺産話は、幹部会議だけでしか言葉にしていない。
白服だけの場合は隠語を用いてた。
侍女として真面目に働く少女は、白服の会合を嗅ぎつけることが出来なかった。
桃色にグレーのメッシュが掛かったシャギーの娘。
定例会合が長引いてしまった為、直上の先輩メイドから『あら、働きはじめて2週間足らずで、いい御身分です事? 庭の掃除はもう済んだのかしら』なんて、一人で片すには苦労しそうな仕事を振って。
それに着手しようと、動いたら。
『もういいのよ、あなたはさぞ立派な御身分なのでしょう? 私たちが終わらせたから、客間の食器を片してきたら宜しくて?』
これもちょっとした苛め、いあ、或いは躾けかもしれない。
とてつもない大きな声で。
怒鳴られるよりかは......
うーん。
個人的には堪えると思う。
ドッペルゲンガーが、客間へ赴くと。
もう、先輩たちが片づけに入ってた――応援だと滑り込んだ彼女は。
持ち前のスキルと明るさで、不自然なく先輩たちの噂の中に入ることが出来た。
「聞いた?!」
「なになに、なに」
動揺した白服の口走ったことが噂のテーブルに上がった。
まあ、例の報告のことだ。
帝国の魔女が遺した遺産の話と、海を瞬間的に蒸発させた新型爆弾の噂。
戦争中に使われてたら、嫌ねえ~ってオチなんだけど。
ドッペルゲンガーとしては背筋に寒気を感じてる。
ネズミ狩りじゃないけど。
情報収集の危うさに鳥肌が教えてくれてるような。
「あなたの実家は?」
桃色髪にグレーのメッシュが入った少女に問うている。
ドッペルゲンガーは咳込みながら、
「南部ですけど」
履歴書には数代前に落ちぶれた底辺貴族だと、記してある。
もう、領地も家名も捨てた身だと。
ただ、南部の小さな元荘園に。
呑んだくれの父親と――ありふれた、没落貴族の話だ。
「南部なら、大事なくてよかったわね」
「はあ、それ? 本当の話ですか...なんだか、お父さんのことが心配になって、きました」
わなわなって震えて見せる。
これ、信じてくれたかなあ。