- C 877話 国内の騒動 1 -
夥しいまでの躯が横たわる荒野に、ぽつんと人影。
やり切った感だけ残して、肩で息継ぎしてるのが――敵味方区別なく、総勢5万の死者が出た戦場の勝者。赤茶色の巻癖のあるショートヘアが、風に揺れている少女である。
コードネームは《殺戮者》といった。
◇
頑強なるジェラルトン伯爵率いる7千の騎兵隊を加え、新しい州境の戦いは陽が登り切らない、午前7時頃から戦端が開かれた。なんと言うか、いつも通りに目くばせのような判然とはしないけど、何故か確かな指示で南部軍は後退し。
攻め手が前進する。
これが1メートル。
決まった時間で、決められたような距離だけさがる。
伯爵が数メートル先からでも分かるように、
大袈裟に怒鳴りながら幕舎に転がり込んできた。
南部方面軍とも言い換えられる、三公同時蜂起。
南洋王国軍人としてでなら、新たな王家に忠義を誓って国土を護るのは、貴族のあるべき姿だろう。
前王朝から爵位を下賜されたのならば...また、別の選択肢もある。
その場合は、爵位の返上で...
いち騎士に戻って戦功を立てるとか、そういう事だ。
でも、でも。
この三公の蜂起には理由がある。
新たな王家は、これまでの公の労いではなく、改易をもって報いると言ったことだ。
明らかに戦場を欲している雰囲気で。
「おっと、やっと来た...か」
ジェラルトン伯爵を迎え入れたのは、ロッキンガム侯爵に仕える“ストームハク”伯爵。
侯爵の右腕が一連の“お遊戯”をさせている人である。
ま、伯爵は領内の全兵力で参集したとこ。
かき集めるのに時間がかかったんだけど、遅参の罪は免除されている。
「ストームハク卿か、で。何故、今日1日だけで6メートルも下がっている?! しかも交戦による死亡者も怪我人さえも見受けられず...これでは、」
「まるで――そうだ、戦争ごっこだ。こうでもして形を整えないと、三公同時蜂起なんて馬鹿げた作戦に乗っかれないからな。大体考えてみろ、新体制の国家と戦争して何の得がある?」
理不尽な要求の改善とか、その当たりだろう。
ジェラルトンの下にも、任を解き私兵は国軍に編入せよって通知が来た。
まあ、任と言われるほどの職責は無かったけども。
脊髄反射で領地没収のように捉えたところはあった。
「いや、現実に領地が没収された貴族があっただろ?!」
自分の言葉に納得しながら、
なんとなく吠えてた。
が。
ストームハク伯爵は煙でも払うように。
「それは中央の代官たちの話だ。あれは准男爵も含めて前王朝の癌だったからな...、それを成敗してくれたのさ今上陛下さまは、な」
事情を知ってそうな素振り。
では、一連のごたつきは貴族たちの暴走だと?
悲鳴があがる。
いささか突然すぎたのと、微か過ぎたのもある。
戸惑いながら、ジェラルトン伯爵が幕舎の外に出た――目を凝らして、新しい州境に目を向けた。
唖然とさせられたのは異様な光景だ。
本日は終了とばかりに、各陣営が旗を振って終幕した舞台上に。
イレギュラーな役者が上がってた。
次々にぽんぽん、首が飛ぶ演目。
小さな影がひょいひょいって具合に飛び跳ねるだけで、首がぽんぽぽん、ぽんぽんと飛ぶ。
悲鳴が上がれば、
そちらでぽんぽん、こちらでぽんぽん。
「な、なあ...アレも」
伯が指を差し向けた先から視線を外した。
ジェラルトンの目は天幕の中にある怯えと、慄き双眸。
ストームハクに向けられてたんだけど。
あ...
今、彼の意識が途絶えた。
「ひぃぃぃぃ!!!!」
ストームハクの視界からジェラルトンの頭が消えた。
ぽんって音でもしたかな?
小さい影が横切ったら、伯爵の首が飛んだのだ。
それはもう一瞬である。
「な、なんだ、何が...何がぁぁぁぁ」
逃げる、どこへ。
隠れる、どこに。
諦める、なにに。
思考が止まる瞬間がある。
状況が分からないから、天幕の外に出る。
「あり得ない、あり得るものか」
部下から『如何しましょう』って声が掛かる。
とりあえず、天幕の中に居れば攻撃されていない。
「うん、未だ...ね」
囁く声音が広がった。
「今は外にある人たちを優先、一息ついたら...再開するね」