- C 874話 それぞれの人々 2 -
王都近郊にある巨大な街と言えば。
ダービーしかない。
軍港であり商業港である、南洋王国の心臓みたいな性質があるけど。
ここ数か月前までは王家の禁領同様に、治安が悪化していた。
領主の夜逃げと。
都市の行政庁だけでは荷が勝ちすぎたってのもあって。
早々に城州王の庇護下に入ったとか。
他の領主とはまた、待遇が違ったのも印象深い。
だって、地方代官や管理領主だった貴族たちは、改易させられ当主(或いは爵位を持つ家人)は処刑されている――理由として添えられたのが『特権階級としての矜持を示さなかったからである』と定めた発布に則っている。
ま、首を大いに傾げたくなる。
ボクも聞いた時に真横へ倒れたくらだからね。
◇
ダービーの行政区にあった執政官代行は官僚である。
また無官の平民出身者でもあったけど、傭兵ギルドに仕事の斡旋を繋ぎ。
クエストとして治安回復に努力したという。
まあ、報酬は少ない納税からやり繰りしたようだが。
城州王・寧正は、執政官代行の手腕に対していたく気に入ったという話だ。
頑張ったヤツは報われなければならない――そんなノリらしいんだわ。
◆
さて、このダービーにもう一つ。
甲蛾衆の出張所がある。
工作員として404を支援しているのではなく、404エラーズ誘致のために行動してた砦のようなものであると、少しはイメージしやすいだろうか。
アリスさんたちは、宿屋兼食堂の経営で黒字を叩き出している。
上得意は傭兵ギルドが派遣した、冒険者くずれの傭兵たちだ。
本職と比較すると、危機管理と緊張感に差異がある。
上階と下階が見渡せる従業員階段から、食堂の全体をみつめるアリスさんがあった。
《ったく、国軍整備に躍起になってるってのに緊張感がねえな、傭兵供は...》
胸中で愚痴る分には誰も迷惑しない。
アリスさんの脇から下階を見る番頭。
「ボス?」
「ボスじゃねえ、“お嬢さま”って呼べったろ」
言い直されて、上下に頭を振る。
いたくお気に入りのフレーズのようで。
「なんだって、国軍整備なんでやしょう?」
番頭とともに上階へあがる。
亡命政府が連れてきた新しい後継王家ってのは。
前王朝と比較されがちだろう。
市民の手によって国王と王妃陛下は断頭台の露と消えた。
暴徒と化した市民を武力で押さえることが出来なかった経緯や。
他国の侵略を赦した責任とか。
諸々含めて...
今上王朝と比べられるのだ。
そこで、市民が少しでも『前の王朝の方が良かった、な』と思われてしまったら。
「御機嫌取りって訳じゃあないだろうが。少なくとも市民からの支持率ってのは、近代の王室に必要なファクターなのだろう。数世紀前のささやかな幸せが漠然としてた頃。その時代の王朝は融通の利かないくらいの方がウケていたのだろう」
治安が回復した今でも。
安寧を求める声が大きい。
そうだなあ。
暗がりの道は怖いから、一刻も早く...
ガス灯を道に用意して欲しい。
そんな些細な要求だけど。
そもそもガス灯の量産も、未だ、この国では難しいのだ。
西大陸でコレなら...東大陸でも似た雰囲気だけど。
「ガスは無理だけど、篝火に松明で代用しよう!!」
って、エサ子が提案してくれたんで。
ボクらは考えなくてすんでるんだよね。
らっくち~ん。
◇◆◇◆◇
現在の主要な人物たち 2
【聖櫃騎士団】
〇メルリヌスさん
聖櫃騎士団という組織において、精神的支柱にしてアイドルのような存在。
本人は、ボクと同じインドア派で生来の面倒がり屋。
世間知らずな箱入り娘ってロールなのか、素なのか。
物凄く気分屋なイメージがある。
〇魔術師くん
アバターの方は壮年。
中身は...たぶん大学生のような若年層だと、ハナ姉は分析してる。
メルリヌスにめっちゃ気が合って、恋してるっぽい。
泉州王に腰を支えられたメルちゃんを目撃して、怒り狂ってたよう。
参謀のロールらしいけど、熱くなりすぎ。
〇ヴィヴィアンさん
メルリヌスさんとは義姉妹らしい話。
リアルでも、どっちかが連れ子だって話で。
しっかりしてる雰囲気がヴィヴィアンさんのほうにあるので――義妹さんかなあ。
単独顕現を好むようで。
〇モルゴースさん
ついこの間、存在が確認された、聖櫃の上位組織の首領だって話。
正に大人の女性然とした落ち着きとか。
“お母さん”的な雰囲気がある。
組織内でも、お母さんと呼ばれることがあるという。
それ、さ。
思わず口走る暗黒歴史なんじゃない?
〇グィネヴィアさん
モルゴースさんと同じ職場で、宴会部長だって話。
金庫番であり、執政官でもあるようで。
常に手持ちのガジェットで株価チェックしてたりする。
非常に生々しい。
〇アーサー卿
熾天騎士のリーダーにして、おバカ担当。
ブロードソードと、短剣の二刀流で戦うのが趣味だけど、決して強いわけじゃない。
約束の勝利を齎すという“アスカロン”を何度も折っている、騎士王である。
〇モルドレッド卿
剣道家の少女らしく、文武両道な気配がある。
雰囲気ではかなりの年下説があるんだけど、妹属性のフラグが折られて見当たらない。
ペーパーナイフ・エクスカリバーがお気に入り。
通販で買ったらしい。
〇ランスロット卿
昼夜逆転迷惑騎士。
洗濯物を洗ってくれる紳士なんだけども、女性陣の分まで干してくれるとか。
リアルで『見たでしょ?/見てないよ』論争に発展する。
〇ガウェイン卿
長身な女性――ハナ姉とはリアルでもお知り合い。
やべえ事に、ボクとも出会っているという。
全然、覚えてねえ。
〇ベディヴィア卿
使徒騎士のひとり。
巨鳥カイザーヴィルトの居残り組にあって、クイーンズランドには上陸していない将兵。
布哇浮島の農業プラントで土いじりに参加してるとか。
きっと目覚めたに違いない。
◇◆◇◆◇
よし、次だ!!