- C 869話 東西対決 9 -
グィネヴィアさんの仕掛けにより。
城州王の陣営に流れた情報は、こちら側が意図的に伏せられたものが、集まるようになった。
嘘の情報でもなく、かといって真贋不確かな、或いは精度不足のナニか。
南洋王国は早々に、東大陸へのちょっかいを止めた。
まあ、リソース問題が横たわる。
すべて撤収するのでは、投資が無駄になるので情報収集のみ残して――対外工作の一時凍結って事態にまで追い込まれた。
で、二重スパイの可能性は過った。
「本拠地からの情報が不確かになった点を考慮すれば、或いは」
情報の出所、角度、正確性、深度は10段階で、いずれも5程度。
精度を高めると数が減る。
あやふやなものや、疑わしい噂なんてものが排除されるからだ。
未公開ソースには、それぞれの“想像”、“勝手な憶測”が含まれる。
新聞などで公表されたソースは、当局によって調理済みの主食が並ぶものだ。
あくまでも最終的に照らし合わせるフィルターでしかない。
「まさか、送り込んだ工作員を特定してくるとは...。一体どんなことをすれば」
幹部の一人が、閉口する。
口を物理的に手で覆って...
「...無いと思いたいが」
「ふむ滅多なことは言えないな。こちらも気を付けるとしよう」
ふたりは廊下の突き当りで別れる。
白服の制服に袖を通した、元防諜教導団の幹部。
現在は、南洋王国・枢密院へと上位互換されたとこ。
国内のすべてを掌握する組織だが。
《下から上がってくる情報と、幹部で共有する情報に明らかな差分が見受けられる》
口元に手を当てたまま、幹部は考え込む。
腰の上で裾が終わる小さな外被。
黒革のベルトに提げられた小さな剣。
儀礼用であるけど、ペーパーナイフ位の使い道はある。
暫く歩いて――バルコニーへ。
洋館の南向き、3階から外を眺める。
眺望は、まあ。
美しいんじゃないかなって浸る時間は余りない。
手摺の縁に腰を掛け、
「リリィさんも、ユウキ君も派手にやり過ぎです。さて...」
幹部の影から、華奢な少女が現れた。
侍女へと変貌して、再び洋館の中へと消えた。
◇
404から派遣された諜報員のひとり。
コードネームはドッペルゲンガーと呼ばれる者。
性別は中性とされて、どっちつかず。
嗜好も、まあ、中庸のようだ。
侍女に合わせて彼女と呼称するとして――
主な仕事は情報収集である。
鋼のような心臓と、度胸が必要な最前線の現場。
彼女の場合は、見る力が飛びぬけて高い。
狙いを定められた者は、すべてを奪われる。
洋館の内側を自由に動き回れる侍女の姿がデフォルトで。
オリジナルなのだけども。
彼女に見られた者は、廃人となっていることが多い。
まあ、大概は自殺してしまってるんだけど。
「定時報告会デス」
ハンティング帽を深々と被った、雑用係がそこにあった。
大きすぎる皮手袋と、腕を捲っても不格好なジャケット。
親方からの御下がりと聞けば、「ああ」って納得もしてしまう。
「デ、ゲスって語尾は? 一応、ロールは通した方が...いいと思うんだけど?」
きぃひひひって嗤い方は変わらない雑用係。
彼も404が寄こした工作員。
コードネームは...
まだ、いいか。