- C 868話 東西対決 8 -
元帥府麾下、防諜教導団が白服と共に。
東洋王国から離脱し、出奔してた事実――城州王との蜜月は相当に根が深いものだ。
もうずぶずぶな関係で。
歴代の団長が賄賂付けにされてた。
西大陸では、特務機関の404が奮闘している中。
東大陸でも、この防諜教導団が暗躍してた――「不知火との連絡は未だ、つかんのか!!!」――クイーンズランド州の足場固めに専念しているボクたちに、だいぶ痺れを切らしてるようで。
暗躍はしてるんだけど、活躍してるとかはまた、別の話。
あっちもこっちもと、手を広げたところで散り散りに瓦解させる策だったようだ。
泉州王が東大陸に触手を伸ばした事実は。
本人が摂州王を通じて、女王派に繋ぎが持たれた時点からキャッチされてた。
いやはや情報が筒抜けもいいところだ。
と、感心しつつ。
それだけ深いところまで諜報員が、潜り込んでいる事を意味する。
であれば逆手も取り易い。
適当に誤魔化せなければ、容易に取り押さえる事も出来るからで。
◇
宴会部長こと、グィネヴィアさんの目の前に。
女王派・活動家が引きずり出されてた――背後関係が完璧すぎる亜人族。
彼は齢50後半の男。
前職は自治区の大学で、寂れた研究室をもってた化学者だった。
「如何にも過激派に身を落としそうな経歴だが、逆に目覚ましい工作活動が眩し過ぎる。組織の中心に迫るのが目的なのだろうが、やり過ぎだぞ? 防諜のスパイ殿」
グィネヴィアさんがヒールの先で、男の顎をひっかけた。
舐められたり、唾を吐かれたりしたらどう反応するんだろうと...
ボクも、尋問室の中にあった。
「マル殿も見ているし、手荒な真似はしたくない。正直に...いや、こちらに与して二重スパイに成ってくれることを希望したいのだが。どうかな? このまま拷問されて果てるというM気質ならば、仕方ないと思っているんだが」
ボクに遠慮はしてるけど、行為自体の配慮はしないってとこか。
スパイの方も苦笑しつつ。
「二重だって?」
見返りは。
「お願いじゃあない。君がダメなら、他の幹部に提案を持ち掛けるだけで――君は望み通りにSっ気たっぷりのお兄さんたちにお任せするだけの話だよ? えっと私の言葉、心意は伝わってるよね」
ボクの方に視線を向けてくる、グィネヴィアさん。
確認のようで、ボクもなんとなく頷いて見せた。
メルちゃんなんか怯えたままなんだけど。
「さて、最後通牒だ。このオーダーにスパイ殿はどう、返答するかね?」
◇
二重スパイに成った防諜教導団のクイーンズランド担当者は、ほぼすべてとなった。
彼らがそれぞれにニアミスで遭遇しても、お互い“二重スパイ”になったなんて言うはずもなく。
そうして秘密は守られる。
スパイたちは自分たちが何人で、どの区域を担当しているかの仔細はなくとも。
雰囲気めいたところで理解している。
言葉にしたところで、女王派には雑音にしか聞こえないだろうけどもだ。
で、カフェテラス。
互いに背を向けて、ひとりはティーにミルクを注ぎ。
もう片方は、珈琲に砂糖を加えてた。
「州の内陸、ブーリアの魔法士訓練基地に潜ってたヤツが行方不明だって...話、聞いてるか?」
自治政府で持つ唯一の航空魔法団の根拠地だが。
飛行場の整備や、施設の老朽化により、魔法士の兵数割れが深刻な基地だ。
潜入してた諜報員は施設管理部隊員だったが。
グィネヴィアさんの手配により、早々に始末された。
ちゃんと間引きされている。
特に一見、見つかり難い中堅の下にあたる兵士がターゲットで。
幹部にまで上り詰めたスパイには二重を。
それ以外は、
まあ...魔女狩りを勧めたようだ。
おっかね。
「で、彼らには何を流すの?」
ボクから問いたかったけど、メルちゃんが恐る恐る問うてた。
「いや、流さないよ。暫くは怯えながら、流していいかどうか自分らで考えて貰う」