- C 866話 東西対決 6 -
ユウキ・シアンは支度金の殆どを、北西部の海岸線で使用した。
金貨数百枚はあった筈だけど。
懐の革袋まで加えれば、もう、すってんてんだ。
再び、エージェントと出会う頃には、だが。
身なりも随分とスラムに落ちた少年のようだったという。
「それ」
青銀髪も揉まれた様子で、あっちこっちに毛が跳ねてる。
「変装ですか?」
「んにゃ、自前。獲物のサーベル以外は質流し喰らっちゃって。一文無しに、まあ~アレだよね。普段から使い慣れない金貨なんか持つと、身を落とすってのは嘘じゃない訳だ」
オーダーを掛けてから、1週間もかかってない。
同時刻には、銀髪の少女リリィ・フリードリスが、階級以上の戦功をした。
やっぱり災害級と一般人では、こんなものかと。
比較対象が間違っている。
「で、さ。もうちょっとお金ちょうだい!!」
ユウキが拝んでくる。
支度金も有限である。
「何に使ったんです?」
断り難い愛嬌を魅せるので、つい財布のひもが緩くなる。
「んー、ガチャ?」
「は?! ガチャ!!!」
ルートボックスによる――これは言葉のあやだろう。
「遊んでないで、仕事してくださいよ?」
「もう少しで“推しキャラ”が手に入りそうなんだ。あと一押しって感じはするんだよね、で、実弾が足りなくなりまして...」
色々突っ込みたくなってきた。
本人が真面目なので、閉口せざる得ないが。
やっぱりツッコミたい。
「推し...ですか」
エージェントから革袋を受け取る。
中身は、金貨だな。
世界の共通通貨でもあるし、何より価値が不変だ。
含有量で貨幣の価値は変わるけど。
溶かせば一緒。
「うん、この重さなら十分だよ」
重さで中身の枚数が分かる。
稀有な才能だ。
その革袋を、エージェントの目の前で“空”に投げた。
「な、なに、を?!」
黒い影が投じた革袋を掴む。
見上げるふたり――青銀髪の少年っぽいユウキと、エージェントだが。
「あれが、推しキャラ。この街一番の傭兵でね(微笑みながら)、ボクが賭けで勝ったから今日から、手足となって働いてくれる人材だよ!」
賭けは、革袋に入っている金貨の枚数。
エージェントが追加の資金援助する可能性は低いし、支度金と同じ額になる事もない。
エージェントがフードの中から、周囲を見渡す。
すっかりユウキが推す傭兵団に囲まれた様子で、項垂れながらため息がこぼれる。
「で、賭けに負けてたら...」
「お嬢ちゃんが慰みもんで回されるだけさ。可愛い顔をしているから、壊さねえよに適当に遊んだらよ。町の兄さんたちにも遊ばせてやれば、な。稼がせてもらえるだろ」
下卑た笑いが止まらない。
エージェントは顔を拭って――
「この子がそんな飯事に負ける筈もないでしょうに。これ、賭けにもなってませんよ」
◇
フードを取ってから再び、周囲を見渡す。
酷い惨状だ。
全治...は、三日あたりか。
すぐに動けそうなのは棟梁でも、難しい。
「これで街一番?」
買いかぶりではって、エージェントは告げた。
中性的なしなやかな雰囲気を持っているが、れっきとした男であり、スパイである。
コードネームは“灰人”。
凄腕なのは確かなのだが、担当したチームが壊滅する度にやる気を失っていったので、今は公私ともに“灰人”と名乗っている。
ユウキは、彼を先生と呼ぶ。
「これが街一番です、先生」
「ふむ、宜しい。で、次に...」
咳込みながら、会話を邪魔する傭兵ひとり。
推しキャラのようだが。
「先刻の賭けにもなってないですか、アレはですねえ。イカサマです...最初から支度金と同じ額が、あと2回、彼女の下に届けられるのです。届ける者がわたしでなくても、です」