- ようこそ、わが冒険者ギルドへ -
冒険者ギルド、それは一体何の事でしょう?
ふとしたことに、とても便利な言葉のように聞こえてくる――でも、事実それはとても不可思議な場所に思えませんか? だって、時代に関係なく、そう、全く関係なくいや疑いようもないくらいに至極、当然のように“冒険者ギルド”と言えば、誰もが納得してくれる場所。
また、いろんな方面の疑り深い人たちも「ああ、ここに頼めば」なんて信用してしまう組織。
怖いですよね。
私、とても怖いです。
彼らは個人営業なのか、はたまた公務員ならぬ国家の施設、組織なのか。
全く皆目もつきません。
だれもが詮索したことが無いような。
詮索しちゃいけない組織?
それ、やっぱり怖いですよね。
さて、この世界にも、そんな便利で奇妙な“冒険者ギルド”があります。
そのひとつを見てみましょう。
「ご新規さんで?」
俺は冒険者ギルドに仮登録されてた身分だ。
少し戸惑っていると、先のパーティに助っ人として参加してた治療士から。
「この間はお世話になりました、今日は...えっと、おひとりで?」
勘の良い人じゃなかったから訝しんでる。
眉間に皴が刻まれ、あれこれ考え始めたようだ。
まあ、俺としてもこれ以上の詮索はごめん被りたいのだけど。
「仮登録されてた方でしたか!!」
なんて、大きな声を出すスタッフ。
全く、デリカシーの欠片もない。
少しは俺の立場になって...いや、身も蓋もないのは俺の方か。
俺は、こんな年齢にもなるまで本登録してこなかった。
いや、したくても出来なかったというのが正しいか。
◇
俺の名はガイウス。
狩猟を専門とする村の出だから、獲物の追跡や罠といったことは無職業の状態でもそこそこできた。それが自慢で、村を出たその頃までは、確かに有頂天だったわけさ。いやあ、世間てのは厳しいな。
世界にはアマチュアと、プロフェッショナルのふたつしかない。
前者が俺で、後者が俺の居たパーティーだ。
パーティの連中は、適当な雑用係と囮役が必要で、俺が必要だった訳じゃなかった。
いや、そういうのも理解するのが真の冒険者というものらしい。
都合のいいお調子者だったのさ。
で、――今に至る。
「はあ、30歳を過ぎてから...ですか」
いちいち癇に障る奴だなあ、歳を読み上げるなよ。
「あ、ごめんなさい...30歳で本当に冒険者やるんですか?!」
未だ、かつての俺を知る治癒士がいた。
彼は、プロの治癒士だ。
薬の調合から薬草採取まで熟せる。
少ない魔法力で軽傷から中程度の傷を治す力があった。
平均スキルレベルは、中位階程度って処か。
俺と比較すると、10人俺がいても届かないってレベルだ。
いや、俺みたいのが10人もいたら、マジで冒険者やめて他の職業を探すだろう。
「他の仕事じゃ、土地に縛られちまうしな。今更、土いじりってのも捻くれた性分に合うとも思えん...で、地道にコツコツとなんてのも、パッと稼げて――」
なんか俺に刺さる視線が痛くねえか?
へらへらしてた治癒士が俺をにらんでいる。
ど、どうしたよ?
「今なら未だ、間に合いますよ? ここいらで引退も好機かもしれません」
なんだよ、今更。
「なあ、俺もあんたと同じ年齢だから言えた義理は無いんだが...引き返せるうちに引き返せ。冒険者はな博打だ、お前さんは最初から集団で活動してたんなら分からんだろうが。ソロが基本のこっちは自分の能力に値段を付けて買わせるもんだ!! 甘くはねえぞ? そこんとこ分かってて今、登録しようってのか」
それで、こいつらは俺を睨みつけたのか。
モンスターのタゲ盗りが、俺の集団でのもう一つの仕事だった。
俄かなスキルは、結局、俄かでしかない。
無職業だからまともなスキルが取得できるわけもない。
結局、適当なほんとうに適当すぎるところで“戦士見習い”ってのを獲得した。
これは称号で、職業じゃない。
最初は嬉しかったけど、まあ、察しだな――。
「やめますか?」
ギルドのスタッフも腰が引けてきている感じだ。
あちらにすれば、メリットがない。
俺のような老害はビックマウスだが、実力が伴わないお荷物だ。
依頼紹介料ってのも高が知れてるってだけで旨味もない。
そりゃ、引けて当然だ。
だがな!
「いいや、能力測定をして俺には、どんな道があったのかを知っておきたい」
仮登録ではなく、本登録までいっていれば今頃は――最強剣士か最強魔術師なんてのも。
「じゃ、この水晶を握ってください」
ギルドには能力査定という水晶があると、パーティの騎士から聞いたことがある。
適正を見て、職業訓練学校へ紹介文を書いてくれるのだという。
これにはひとつ、昔語りの話があってだな。
かつて冒険者ギルドの査定では、英雄級の冒険者を見出したことがあるとされる。
まあ、数百年も前のことだが。
査定結果では適正が2、3ある人も珍しくないという。
「身体的な特徴は可もなく不可もなく、やっぱり無職が祟ってますね。もっとも、タゲ盗りの技能がずば抜けてますね...何をしてたんですか? いえ、あとは...強靭な肉体というユニークが光ってますね...肉体強化系のアクティブスキルなので、ステータスに乗算されているようです。適正は戦士だけ、ですね」
俺は耳を疑った。
アマチュアだが、罠や探索、捜索に追跡などのスキルが示されないことに驚いた。
「申し上げにくいのですが、スキルとは専門技能のこと指しています」
ギルドスタッフの声はその後、何も入ってこなかった。
知っているのと、行動に起こすのが違うように。
いざ、その道に入ったら理想と現実の差で立ち止まるのと似ている。
俺は――。
「良かったな、ガイウスさん」
治癒士だ。
俺の肩を軽く叩いてくる。
「なんで」
「いや、何にも無かったってこと無いじゃないか...まあ、これから“戦士”として身を立てるのは難しいし険しい道のりだけど、冒険者として“一流”を目指せるんだからさ。本当はさ、ここにきてその水晶に鑑定してもらっても、自分を見失うやつが多いんだよ」
俺の目が三白眼になる。
何を言ってるんだ、こいつ。
「誰も彼もと理想的な自分ってのを見ている訳だ。輝かしい将来が自分にはあるってね...そりゃああるさ、人それぞれの輝かしい将来がな。己を見つめなおして、為すべきことが何かって目標に突き進むってんなら...こんな人知れず野垂れ死ぬ可能性の高い外道な生き方なんかしなけりゃさ」
「あんた」
「間違いじゃないぜ、俺たちは侠客。根無し草だ、ひとつ処に居られずにふらふらと渡り歩く...それでもあんたが冒険者に来るってんなら歓迎だ。戦士ガイウスさんだっけか? ようこそ、俺たちのギルドへ」
パーティのランク昇格に合わせてお払い箱にされた俺だが、ついさっきまで勝手に絶望して、勝手に自分を高く見積もってたのが、ウソみたいにバカバカしく思える。
俺は雑用係のガイウスだ。
見習い戦士のガイウス――だが、これからはそう、戦士を名乗っていいのか。
「ああ、よろしくな...おっさんたち」
「お前に言われたかねえよ、30歳の冒険者が!!」
この世界の冒険者ギルドは義援金という資金で各地域、各都市、各町、各村にまで出張所から支部までが存在します。冒険者ギルドは『目』であり『耳』となって“世界評議会”および“賢人会”という組織に情報を届ける役目を担っているのです。
これらの情報を基に、世界の経済だけでなく、各国の政治や外交を裏から操作して“世界の均衡”に努めていると言われています。
仔細を調査して者はなく、不信感をもった人でも国でも消えているのが現実なのです。
ただし、ギルドの背後はどうあれ。
そこに登録した冒険者は義侠心を心に抱いて、日夜、献身的に仕事をこなしているのです。