- C 862話 東西対決 2 -
「じゃあ、こうしよう!」
すっくと玉座を明け渡した泉州王は、さっと河州王こと。
女王に扮してた双子の弟君を再び、玉座の前に導いた。
手を引かれた時までは、何がどうなってるか分からなくて――親王の言いなりのままに動いてた。
「皇太后の機嫌が悪いんだ。ボクが口添えをしてもいいんだけど、いいや。ここは実子である君たちが、機嫌を直して貰えるように。リソースのすべてを投じて努力してみるというのは、どうだろうか」
提案ではない。
目下、盛大な母子喧嘩のせいで国体が荒れている。
表向きは男漁りが盛ん過ぎる女王に、皇太后が母の立場で恫喝した構図になってた。
那岐将軍の反乱も。
そうした不安定さから生じたものだとか。
というのが国民の考察なのだ。
「――那岐将軍のは」
「分かってるよ、顛末くらいは。ボクらも巻き込まれたサイドの人間だからね。でも、もういいんだ...この国に未練はないし、おっと、無責任だと罵るのは辞めてくれよ、ボクたちは居場所がなくなった立場だ。寧懿が健気に兵を挙げたけども...焼け石に水だったようだしね」
その評価は正当じゃない。
王城守備隊にすれば、精神的支柱にもなってた。
唯一無二の“元帥”である、泉州王の身内であるというだけでも、ネームバリューはあった。
そして、期待が強ければ強いほど。
陣営から距離を置けとも、彼女に教育したのは泉州王その人だ。
「いや、いいんだ。繕わなくても、ボクたちはこの国を出奔することにしている」
河州王を玉座に沈めた。
両肩に入る力は強く、立ち上がることが出来ないでいる。
今、ここで泉州王を止めないと。
◆
王城から後宮府の皇太后の下へ“詫び状”が届けられた。
内容は終始、謝罪に似た言葉で綴られているようだけど。
所謂、降伏の宣言だったようだ。
姉・寧花の忘れ形見であるふたりの少女ら何れかに、禅譲する用意があるというもの。
ただし、摂政として河州王が立つというのは外せないらしい。
その新書を持って参じたのは、泉州王そのひと。
礼服に袖を通して、冠姿はかなり珍しい。
礼服は東洋の民族衣装だし。
軍服姿だった親王からすると...
「似合わないな」
双方が鼻を鳴らした。
吹き出して嗤うまで、時間もかからない。
「姉上も、しかめっ面が似合いません。...っ、それと、ですね」
親王の会話を遮った。
「分かっている。十分承知だよ、王城の連中とお前のことだ、水が合わないのだろ? だったら、後宮府に居を構えて」
皇太后の会話に咳払い、彼女がソレを遮った。
「ぜんぜん、分かってませんよ。水が合わないのは、姉上とでも大差ないんです。放浪癖があるのは何も、病気って訳じゃなく...王族の末席が、ボクに合わないだけの事。まあ、他にも気分を害していることで言えば、王族の男子が種馬程度にしか見られていないこと」
まあ、それは東洋の長い歴史での腫瘍めいたものだ。
傷であったり、病であったり。
ただ、女王が不慮の事故で亡くなる前に。
せめて議論でも重ねていれば。
こんなみっともない政争に成らなかっただろう。
「では、残らないのか?」
皇太后の問いに、広角が挙がる。
「ま、ええ」
◆
とりあえず、泉州王ら本隊を迎える準備が整った。
クイーンズランド州だけに留められた支配なのだけども、盤石かと問われると。
モルドレッド卿が“くの字”に曲がってた。
「モルゴース姐と、グィネヴィア(宴会)部長はいつまで?」
おっと、メルちゃんがフラグを立てた。
そんな細い苗木なんて、簡単にへし折られるのに。
「あら、メルちゃんは面白いことを言うのね?」
ほら。
こういうタイプの人は怖いんだよ。
「マルちゃんも同じとは驚きなんだけど?!」
なぜだー。