- C 822話 皇太后の戦い 2 -
超高空にある“コウテイ・マンタ”へ、久しぶりの直通交信。
遠見の鏡で、互いの姿を見るのも久しぶりだ――キルダさんは少し、運動不足のような外見になったように見えて、それが原因か分からないけど不機嫌そうである。
「心配ありがとう、こっちは艦内の道場で身体を動かしているから。いあ、それはいい...それはいいのだが、この通信の目的を聞いても良いのかね? ハナ殿」
FAX代わりのウナちゃんは放心状態。
恐らくは、本人、ログアウトしているっぽい。
「まあ簡単に言いますと、潜水も可能なゴーレムを貸して欲しいなあ、と」
それは簡単すぎる説明だよ、ハナ姉。
ほら、キルダさんの目が細くなってる。
これ納得してないっぽ。
「ほう、それはナニか? 魔界軍にタクシーの代わりをしろと」
ほらあ。
怒ってるよ、なんかすっごい怒ってる。
謝って、とりあえず一回は、頭提げちゃおうか。
「はい。そうなりますね」
あ?
「ふむ、あい分かった... 貴様がクルクルパーだってことがなっ!!!!」
鏡の前でぐー、ぱーと拳を握ってる。
明らかに不機嫌の原因は別の何かなのに、とうとう今の会話がそれに置換されたような。
そんな雰囲気だって、ある。
「くるくるぱーじゃないです」
「くるくるぱーだろうが」
そうじゃないって応酬に成ってるが。
そういう事でしかない。
どっちにしろ、手段としては交渉してみる価値はある。
上手くいかないとしても。
戦力や或いは、技術面で言えば間違った選択じゃないんだけど。
「いや、そもそも何故、われわれが介入しなければならん。ついぞ、数日前は...特例として共闘する必要があったが、この状況下でなら魔界軍と聖櫃は元の敵同士になっている。そんな状況ではないのか?!」
至極当然。
いあ、ごもっともです。
うちの義姉がなんか失礼してしまって、ほんとうに申し訳ありません。
ボクが代わりに謝ります。
「そうですねえ。今、この時点で袂を分かつ場合、魔界軍に及ぼすデメリットは“魔王ウナ・クール”の損失と、“ゴーレムマイスター”の流出でしょうか」
軍師ハナ・コメ自身は、勘定に入ってない。
いや、第二魔王領に自治区として認められてる獣王の娘こと、エサちゃんもだ。
こちらは魔界にとって些末なことなのだろう。
でー。
鏡の前の手をぐー、ぱーしてたお嬢さんの動きがぴたりと止まる。
小首を傾げて、さらりと動いた前髪の奥から獣のような殺気が立ち。
対岸になってる納屋の室温が10度以上下がった気配に。
だれかー
エアコンはー?!!
「何千キロ離れてんだよ!!!!」
魔術師の膝が震えて止まる気配もない。
蛇? そんな生易しくはない。
熊? いやいや。
獅子だよ、獅子。
すげぇー立派な、ポン〇リングを首に巻き。
喉を鳴らしながらこう、左右をにじり寄ってくる猛獣のような気配。
「お、怒らせるな! ハナ殿」
摂州王は、鏡に映ってもない背にあるのに仰け反ったまま硬直。
失神しかけてる。
「凄いな、これが一流の剣士か!!!?」
「一流? いいや。これでもすこし頭を撫でただけだ、よ」
瞳が光るキルダさんが呟いた。
「で、脅迫して何か得はあるのか?」
「さあ、特にありませんが。期待は出来ますね、ウナちゃんが大事か...義妹も気にかけて貰えるのか」




