- C 818話 王都の戦い 8 -
――城郭の東棟。
泉州府軍に与えられた拠点のような地だ。
立地的には悪くはない。
王城で守戦をするならばと、寧景と問答した時。
悪手だが悪くないと、唸らせた拠点。
守戦なのだから、味方の連携は必要なのだけど。
それは信を置ける、真の友軍であればの話――内側にも敵を抱えるとなると、行動の一部始終が見られる立地に陣を敷くのは避けたいところ。そういう意味で、寧景は「悪くない」と零してた。
また、府からの兵も。
寧懿の為に命を捧げられるよう、過酷な訓練で鍛え上げた配下たちだ。
彼女が何者であるかも、墓までもっていくよう教育してあった。
「殿下?」
副官のイケオジだ。
この世界のイケオジ率はわりと成分も濃度も濃くは無い。
非常に貴重な戦力である。
「火の手により混乱するというのは、寧景さまの手には無かったけど。概ね、流れは...問答そのものに近くなってきてはいないかしら? ここまでは良し。わたしのデビューも、難所かと思った謁見もすべて順調。少し順調すぎて怖いくらいだけど」
「そういうものです。また、少し怖いくらいだと、ご自身で自制できるところは殿下の今後、伸びしろを感じさせます。王府を継ぎ、盛り立てていかねばなりません」
女系王族の系譜が断たれても、王国が続くのであれば。
王府だって、形かそれ以外になっても、続かねばならない。
家を継ぐとはそういう事なのだ。
◇
うって代わって、王城の主郭。
天守閣みたいな望楼はないけど、そこには4階建ての館がある。
その周りに3階まで覆った城壁が張られて、いくつかの尖塔が突き出してるわけで。
銃座や砲座があって、守備兵500の詰め所が、各方角にひとつずつあった。
「――寧懿、ぽっと出のわりに受け答えのよい若者でしたな」
腰が抜けて動けないという首相が、ソファーの上で木の根のように横たわっている。
どうも寝返りが打てそうになく。
陸相と海相が政府内でいちばん若いという事で。
「...うむ済まぬなあ」
多分、心にも思ってない言葉を口にしている。
政治家のうち下院の市民代表らは、議事堂からさっさと逃げているだろうし。
貴族員の連中も。
たまたま、王城に居た連中だけが。
「取り残され」
「それは、前にも聞いた。(河州王が眉根を上げて、)大臣級の閣僚たちも、ことごとくが王城に居る訳じゃないから、方々に逃げ伸びてるんじゃないかって話だろ? お前たちの悔しさか泣き言か、或いは亡き女王に玉座を城州王に明け渡して、禅譲させるためにここに居たとか...そういう話なのだろ?」
親王は手をひらりとひるがえして、
空を掻く。
「生憎と、それは叶わない話だ。まず一つに、この暴挙は実らない。後宮勢力を舐め過ぎだ」
「そしてもう一つ、余の手駒がひとついつ断言した?」
耳を澄ますと、
何だろう声が聞こえてくる。
包囲網からは相も変わらず、怒号が聞こえるけど――それとは違うようで。
「散り散りになって逃げた議員たちは、おそらく城州王のことだ。不要物ものとかいって切り伏せてると思うよ。あれはそうやって、人も道具も壊してきた男だ...寧華さまが皇太后の隣に居てくれていれば、立派な武人になってただろうにな」
えっと。
寧華って人は、名をしょっちゅう変えまくっている泉州王のこと。
今は、寧景だっけか。
寧華に戻すと、手足が腐り落ちる呪いに罹ってしまう。
今のところは名前縛りの呪病ってことになっている。




