- C 802話 鬼将 河州王の野望 2 -
記者の質問がスルーされたような感じだけど。
河州王の妖艶さにはやはり息を呑む。
でも考えてみると...
この人、
三十路の中頃なんだよなあ。
「ん? なんだい」
その直感も女性のように鋭く。
考えてたことがスパッと抜け落ちたところだ。
◇
「――大陸戦争の始め方と、終わらせ方には先方の希望に即する必要があった。最後にこちらの要望を通すことが必要だから。“それだけでは無いのだろう?”って言葉を引き出す必要があった」
記者の筆が止まる。
「おや、何か気になる事でも?」
「閣下は、何をしたんですか」
台州の東洋租界に招きこんだ、欧州で盟主を分け合う有力な氏族たち。
その彼らとの秘密会合は、次の世界地図について話し合ったものだ。
極東への進出を窺ってきたナーロッパ勢力。
東に進めば、300年前のように。
北天五公がその進軍を退ける。
兵力差もさることながら、長大な補給路の維持は世界の半分を巻き込んだとしても、叶わない。
利益追求思考である彼らにはデメリットが大きすぎた。
旨味がなければ。
「そこで、電撃侵攻作戦の創案だ」
言うは易し。
先にもあるけど、東洋王国が動けば北天も警戒する。
「北遼と超公の国境線問題が?! 布石ですか」
記者の黒皮手帳が広げられた。
その手帳は、繋がらなかった疑惑を書き出した資料のようなもの。
長年、南北の遼国は敵対していたのに。
大陸戦争が東洋王国の主導の下に展開される、僅か5年前の小競り合い――北遼側死者数は1800名、北天・超公の死者は3270人となった“白池城址”抗争だ。
高地の国境線を巡る戦いだったが、北天軍の質が知りたかったと。
この時点で記者に説いてた。
「北遼の高地旅団は、極めて優秀でね。城州王さまの手で鍛え上げられてた経緯がある。いや、確かに表面上は敵対しているように見える南北の遼国だけども、そもそもは一つの国家だった訳だ。城州王が根回しした約束は...ふふ、実は効力が残っててね」
記者がきょとんとしてた。
鉛筆の先は中毒か何かのようにしきりに舐めているんだけど。
「南北をひとつにまとめ、国にしてやろうと仄めかしたのさ」
「でも、生まれたのは“燕”王国ですよね?」
枯れた国家の再興。
北天に生まれた新たな秩序により、潰された国だったけど。
あれはもう、自業自得な気がするけど。
亡国の民となった者たちと、かつての王族の傍流は納得してなかった。
つけ入れられたと言えば、まあ。
「燕という王国に、北遼は“侯”の爵号に封じられ、南遼は“伯”に落としたけども。それぞれの民は、ひとつの国に迎え入れられた。もっとも強い壁だと思うんだけどね」
燕王国の国際社会への認知は、建前。
欧州らが納得できないと行動したとする。
北天の体力は短くなった蝋燭の芯のようにあっさり燃え尽きてたと思う。
大連合となった欧州軍は、助けるべき名分を失うのだ。
いあ、
河州王は不意にフリーズして、
「あ、がめついから...事前協議も反故にされちゃってたかもな」
と、見解が甘かったこに反省してた。