- C 800話 城州王と反乱軍 10 -
前髪をたくしあげながら、溜息。
でかいおっぱいがついた、男らしいさまの長身女性。
たっぱでも、海鬼に屈しない。
背中から滲み出るオーラか、フェロモンか。
海鬼族の風習。
それは、超がつくほどの“かかあ天下”。
◇
拳骨、張り倒し、踏みつける、もはやおねだりのような仕打ちを、甘んじて受ける海鬼族に対して引き気味の義姉がある。
中には武威を示さんと立ち向かってくる士官もあるけど...。
最初だけだ。
部下にいい格好を見せたかったか。
仕置きがキツくなると思って突貫してきて――気が重い。
「だから言ったのだ。正面から当たるな、と」
イヤーマイクから魔術師の声が響く。
強く当たると欲しがり屋になる一族。
なまじ傷つけられる存在が少ないから、精度の方が傷つけられたら喜びに変わる特異体質へ。
「いや、言ってない!! 絶対に聞いてない!!」
面倒がる。
最初は鎮圧目的だったから、不殺の決意で臨んだ。
今は殺意が駄々洩れてる。
「モルドレッドとコンタクトを取れ!」
魔術師からの要請。
「あーん? そいつら地下の方だろ」
「投獄されてた連中の縄張りに近く、今一番、助けが必要なチームだからだ」
ハナ姉も小さく頷く。
見殺しにすると、耳の中で騒ぐ声が止まなくなるだろう。
少なくとも、戦えないボクが人質になってる訳だし。
◆
城州王の秘匿通信を受けた“白服”たちは、ほぼ同時に行動する。
王城内で、後宮内で。
王都全域で、国内全域で。
マーカス魔法学園の内と外とで狼煙が挙がった。
見えないけど。
で、このタイミング。
熱気盛んな意味不明な状況下で、乾いた音がマーカスの空を灼く。
親王と黒蜘蛛の射線とが交わった気がした。
で、見誤ったように第五学園長の頭が、柘榴となって弾け飛んだとこ。
「最悪! 最悪! 最悪!!!!」
城州府の裏山に潜んでた彼女は転がるように下山中。
いや、現在進行形で転がってる。
駆け下りてたんだけど、躓いてごろんごろんと転がってた。
ところどころ痛い。
意識が飛びかける痛みだ。
射撃音と狙撃された者を見れば、同業者であれ射位置はすぐに見当が付くだろう。
「ぎゃ、ぎゃああぎゃ」
「ほら、黒蜘蛛こんなとこで寝るな」
桟橋にある筈の不知火が手を貸す。
丸くなって動けない小さな荷物。
「な、なんで」
「なんで? そりゃ、仲間だからだろ。港には行く予定だったが、街が封鎖されたんだ。そしてこの騒ぎだ、まるで熱病にでも冒されたような異常な熱量の前に正攻法の脱出は難しいとの結論に至ったという訳だ!!」
舌を噛まずによく、走りながらしゃべれる。
そもそもスパイにそんなスキルは不要だろうと思う。
「見た目は“貧相な男”だがな、俺はおしゃべりが好きで陽気な男なのさ」
あれは演技だと言いたいらしい。
「で、仲間思い」
丸くなってる荷物を、どことなく触りまくってる気もする。
「信用が無いなあ~ 触診だよ」
「触診? お腹と胸をまさぐるのが?」
見上げると、
頭から流れた血で視界が真っ赤だ。
気まずそうな男を見て、
「そういう事にしておく」