- C 795話 城州王と反乱軍 5 -
「2射目はない!」
黒蜘蛛もとい、雀は清掃具室に戻ってパイプを持ってくる。
まあ、流石にそんな工具なんか使うってんなら、爆弾くらいしか出来そうに無いけど。
それは単なる気づき。
この学校も、飛行魔法士だけを養成する訳ではない。
魔法の才能に長けていることは勿論だけども、すべてが飛行ユニットを装着して空へ上がる訳ではないので、当然、中途から別科に編入し直す子供たちが出る。
初等部の入学条件は、満10歳であること。
受講期間は2年間で、飛行魔法士の初級ライセンスを取得することが義務付けられる。
中等部になると、学科はどんと増える。
整備科、保安科、工業科、普通科などか。
飛行魔法士と、錬金士はこの辺りから分かれて、3年。
次の高等部ではより専門的なかつ、士官、将校として研鑽を積むことになる。
これら、マーカス魔法学校とは。
次代のエリート養成施設ってことになる――んだけど。
「私物化が目立ってるんですよね。本国の方も城州チルドレンなんて言われた、将校たちに懐疑的で。ここマーカスで王立であるのを隠れ蓑として、一体どんな精神教育を施しているのか。そんなところを探ってるようなんですよ」
啄木鳥はそう閉じる。
彼の調べた限りでは、表向き一見、命令に背きそうな生徒の素行指導教室がきな臭い。
確かに不良だった生徒は穏やかになって成績も伸びて、更生したかに見える。
反抗的だった性質が急変するプログラムは、目につきやすい。
「それがパフォーマンスだとしたら」
自己性能を底上げして、性格や性質の変化に向かせることができるなら、更生じゃなくても出来る。
集団幻覚でも似たことができるのだから。
「工業科の連中に、それとなく銃のようなものを造らせれば...」
「いや、一見で分かるようじゃダメだし。考えさせても良くない! かつて、東洋王国でも近代史に入る以前に使われていた、骨董品がいいと思う。(不知火は相変わらず首を傾げて、黒蜘蛛の甲高い声に追いついているのか、まったく興味がないのか...いろいろツッコミたい態度の中にある)火縄銃だよ!!」
先込め式の銃丸なる鉛玉を、火薬とともに筒の中に放る。
よく長い棒で押し固めたら点火とともに、火薬の燃焼ガスで銃丸を押し出して遠くへ飛ばす代物だ。
銃身の内側にはライフリングが刻まれていない、単純なつくりで。
せいぜい飛んでも50メートル前後だとか言われる。
もっとも登場は13世紀ころで、本格的に使われたのは3世紀以上後に成る。
「ま、仮に... 狙撃するにしても」
高い位置からの撃ち下ろしは、マスケットだと難しいではなく、無理だ。
だって、弾込めの所作。
「そう。サラサラの(手製だろうけども)黒色火薬を注ぎ、その後から放った銃丸で押し固める。水平の射撃でも引き手がやや下がっていないと、隙間が空く可能性があって飛距離に致命的な禍根を残す!!」
雀が肩を竦めてる。
「ま、1発だけでいいし。多少のリスクくらい、背負うのはボクだから」
どうも歯切れの悪い。
歯に何か、詰まってるような物言いだ。
「時間が稼げれば、ね」
◆
一方、城州府でも俄かに騒々しくなっている。
卒業式が近いという訳ではない。
いや、最高学府の間近な生徒でも、あと3~4か月ほど先だろう。
そのまま、陸あるいは海軍大学校へと進学するなら、うん...まあ、そろそろかなとか。
「私の愛する生徒諸君!! いや、ここでは同志諸君!!!!!」
城州王が壇上に立つ。
くるぶし分高くしたような高さの壇上に上がってる。
で拳を振り上げ、檄が飛んだ。




