- C 794話 城州王と反乱軍 4 -
甲蛾衆がどのルートで手に入れたかも定かじゃないけど。
アリス・カフェインとの会合で「手助けになると思うんだけど、使い方は君たちに一任しよう」と渡された資料の幾つかの中に、陸諜の“極秘”なる計画書が含まれてた。本来ならば、その情報ひとつで巨額な金塊が動くだろう、情報なんだけども――「どこで、いやどこから...コレを?!」
黒蜘蛛は好奇心から問うた訳じゃない。
その気になれば、このフリーランスの諜報員たちは、他国のあらゆる要人のスキャンダルさえもいとも簡単に手にするのだろうという危惧。
それから背筋に走った恐怖だろうか。
「うーん、教えると思う?」
「普通ならば、な」
教える筈もない。
このまま、その極秘資料に目を通さなくてもいい。
会合の契約は“子蜘蛛たちの安全と逃走に尽力する”と“甲蛾衆のエージェントを救出する”。
これらを互いに履行することが前提。
仮に...
どちらか一方が達成した後でも、見届けた後に行動してもいい。
そんな決まりだった。
「まあ、それでもいいけど。出来れば、同じ時間軸で行動して欲しいけどね」
なんて、会合を後にする際にアリスさんから、そんな声を掛けられてた。
甲蛾衆が手に入れた『陸諜』の極秘プロジェクト。
東洋王国には国内外で諜報活動を行っている組織がいくつかある。
政府組織内で言及すれば、
高等警察庁の対外保安局(旧調査局)、陸軍省の情報三部・戦史研究科、海軍省に新設された連邦報道補佐官部くらいか。後者の組織は、表向きの仕事の方が多くて対外調査は少し疎い感じ。
それでも、皆。
マーカス魔法学院にエージェントを送り込んでいた。
さて、かつて泉州王が率いていた元帥府にも、諜報部隊はある。
参謀本部・防諜教導団だ。
本国の片田舎のあちこちに学校を設けて、養成しているカネのある連中。
不知火は...この組織のエースなんだけど。
◇
なんと言うか。
甲蛾衆の諜報員であるふたりに、計画を伝えるのは始めてだ。
が、黒蜘蛛は顔を覆い隠しながら左右に振った。
不知火には見せているし、ふたりで細部まで確認し合った。
つい、2~3日前の客船での出来事だったように思う。
「――無謀じゃ、いや。仮にそのプログラムを実行できたとして...」
支援班の啄木鳥が言わんとすることは分かる。
浮島から離島、上陸する人間は必要以上に調べられるのが定めだ。
そこに希望を見出すのは難しい。
「ま、逃げ回ればの話だ」
人知れずに自害するのも、単独犯だとは思われにくい。
そこで航空写真だ。
四枚を組み合わせると、島全体の地図になる。
緑の濃淡から人口であるとはいえ、森や林などがどこに自生しているかが分かる鮮明さ。
「城州府に張り付いていたという痕跡は、ベタな小道具で用意する」
煙草の吸殻とか。
おしっこをため込んだ容器などは、散乱させておく。
「銃はどうするんです?」
学園内でも調達は難しい。
現地調達が鉄則ではあるけど、同時に諸刃の――だ。




