- C 775話 帰還と反撃 5 -
さて、話を整理しよう。
布哇の浮島は、暗黒大陸(=北米大陸)に近い海域に合ったため、全力で南太平洋へ移動中である。
とは言っても経済推進力は、18ノットで。
島の大きさによって、体感では速さが感じられないという。
まあ、仮に時速33キロメートルで走ってるんだとして――体感できる何かに置き換えるとしたら、ちょっと早いロードバイク(=自転車)か、或いはスクーター、乗用車の制限道路侵入みたいなもんだろうか。
いずれにせよ。
遅せぇー、遅せぇーな、コレー!!
ってな具合。
これが体感的に遅いと感じる、もう一つの理由は。
アレだ!!
水に由る抵抗問題。
艦艇のように速く走るように作られてる訳じゃない。
企画はみな同じなので。
浮島のベースは皆、真円形かつ円柱スタイルであるということ。
海底のドーム型都市のように、球体も考えられたことがある。
いや、最初は球体だったとこへ、キノコの茎部分が追加されてしまった。
そこは大人の事情。
結果としてみて――動くのが億劫になった。
動けるのに動かない変な代物。
だから18ノットはこの変な施設の最大速力だと思っても差し支えは無い。
だってこれ、これが精いっぱいなんだもん。
マナ鉱石だけでなく、風力発電や太陽光発電ででも、タービンを回せる未来感。
「違うだろうが!! マナ鉱石で出力されたリソースを、すべて推進力に注ぎ込んでるだけだろうが。重油、石炭なんでもいいが...焼缶で水蒸気を作り出してタービンの羽根を回すとか、或いはガスを高温にさせて同じくタービンを回すなんて内燃機関と同じことをしている時点で、進歩がねえ」
カイザー・ヴィルトの動力炉のように、マナ鉱石から魔力を取り出して精霊と同じ純粋なエネルギーに位相変換する技術なら、水の上を奔る事象のイメージだけすればいい。
物理上の抵抗係数なんて、世界線ごと違う次元に置き忘れていいレベルに成る。
◇
ガッチガチの物理法則に縛られた、浮島の目的地は南太平洋のとある緩衝地帯。
その海域は、万年霧の濃い場所として知られていて。
摂州王がせっせと監視島を建設してたとこである。
あ、先代の摂州王である。
外から見ると、霧が濃くて危険視されてるんだけど。
足を踏みいれると真っ青な空と、碧の海が広がった楽園だった。
そんなトコに惚れこんだ先代王は、泉州王に別荘を作ってあげようと考えた――泉州王が実は女性であって、摂州王との間に直接的かつ間接、遠縁でもない関係性がないと知ってたんで。
恋をしてた...一目ぼれである。
摂州王は、親王の昔の自画像で惚れたんだけどね。
「魂の惹かれ具合って事で。じゃあ、気にしないです! なんて言われたら、どう接したものかと思うじゃないか。無下に袖にするという訳にもいかないし、かといって...OK! ベッドで寝るかーなんてフレンドリーに接するのも変と言うか」
泉州王は律儀だった。
好いてくれるのは拒まない。
ただ、今の外見ではない。
複雑。
いつでも呪いが解けて、魂の帰れる場所は確保してある。
先代摂州王が作ってくれた監視島の施設に移送された棺桶がそれで。
その島から反撃の狼煙がある訳だけども。