- C 770話 マリアナ群島 追撃戦 10 -
台州へ向けて飛ぶはずだった怪鳥ゴーレムさんだけど。
実はくるりと反転して、マリアナ群島にまで足を伸ばしてた――彼らも、マナ鉱石の補給が必要だし、弾薬だって心許ない状況だった。それでも飛んだ理由が、元帥府の艦隊が燃えていることに起因してた。
だって、沖で固まって停泊している艦隊があると、通報したのが彼らだから。
その要請に応えたのは、母艦シュリーフェン。
クァンガイに再集結するはずだった艦艇らが、だ。
装甲水上器母艦シュリーフェン艦長の呼びかけに集まった、らしい。
ま、人望なのだろう。
補給と修理は台州と青島軍港である。
ちょっと状況がアレだけど。
傀儡“燕”王国が、東洋宗主国を裏切った訳じゃない。
駐在する陸軍総督の判断だ。
「白服どもに灸をすえてやれ」
とのこと。
◆
大陸の支援を受けた中欧艦隊は、全盛の半分まで戦力が回復して決戦に及ぶ。
台州の民間船に、元ウイッチだった少女たちが乗り込む。
同じ境遇に晒された少年たちは、大人の魔法士たちとともに軍艦へ。
「君たちも心を病んでいるだろう? 無理はしなくていい。ここは祖国に戻り、傷を癒してきなさい」
準装甲水上器母艦“ゲルリッツ”の飛行大隊長が、少年兵を引き留めてた。
カイゼル髭を生やす前時代的な、初老的イメージのおっさん。
戦場は違ったけど、彼の船の飛行士たちも多くが散った。
故に、若い兵士たちの参加は心強いのだけど、逆に儚さも感じてて。
「ご心配ありがとうございます」
帰還しただけで特進した若い少尉は、敬礼して答える。
「ボクたちは彼女たちの分まで戦うと誓ったんです」
襟もとに光る飛行士の記章が二つ。
逆に少女たちの襟からはその光が消えている。
「彼女たちとともに飛ぶ。それで充分です!!!」
瞳に炎が見える。
やられた分の倍返し。
そんな言葉が少年兵からこぼれてた。
洋上に停泊してた艦隊の探照灯は、1キロメートル先も灯してなかった。
見張りをしなくちゃいけない兵士まで、島に上陸してしまっていたのだ。
その理由は斥候で送った偵察巡洋艦らの定時報告が常にあったから。
「旗艦より、各艦へ通達!! 異常事態ーっ!!!」
デッキを磨いてた士官が発する警告。
同艦に赤色灯がともる。
あ、いや残念。
機関や砲・雷術の将校も上陸してしまっているから、残ってるのは宿直の下士官たちだ。
とはいっても、1000人近い乗員の半分以下。しかも、ベテランで残ってたのもごく僅かだったのだから目も当てられないだろう。
駆逐艦は抜錨時に、錨を元から切断して急速離脱。
主舵だの、取り舵だのって左右に転じたところへ触雷――木っ端みじんに吹き飛んでた。
海の深い闇の中、低空で飛び去る水上器たち。
艦隊の左右から同時に飛び去った。
「耐衝撃姿勢ーっ!!!」
伝声管にこだました声。
次々に水柱が上がって、頭上から「ひゅー」と高い風切り音が聞こえる。
ブリッジ横の袖へ下士官が、酔い潰れた白服に代わって首を出す。
肉眼で見えるほど空は明るくない。
「誰か! 探照灯!!」
水平線に向けてた光が真上を灯す。
中央に陣取る水上器母艦に黒い雨。
「爆弾ーっ!!!」
ごばっと鈍い音が鼓膜を襲った。