- C 760話 マリアナ群島 遭遇戦 10 -
「――こちらは聖櫃の魔術師さまに向けられたものだと」
泉州王とともに後宮に囚われてた、
聖櫃の総長ことメルリヌス嬢の救出が行われた。
行きずりの、か。
或いは計画的かは言及されてないけど、も。
そんな情報が、摂州王が率いる艦隊から関係協力の各所へ広まってる――その報告から“布哇”の浮島にも噂レベルで届けられていた。
総長こそが、聖櫃の精神的支柱だと捉えている者は少なくないし。
そもそも魔術師本人が今すぐにでも、飛んでいきたいくらいに心配してた。
なんせ、攫われてもケロっとしてる節の心底、おっとりさんであるから。
いうて、そこまで芯が太い事も無いんだが。
まあ、どちらか(=いずれかの浮島)が移動できれば、かなり心強いんだけど。
浮島が建造された理由は至極、分かり易い。
軍事拠点たる目的などは、後付け設定に過ぎず。
海底都市でしか確保できなかった陸地を、陽の当たる場所に確保したかった。
単にそれが目的の農政プラントなのだ。
故に。
浮島の機動力は、絶望的だ。
そりゃ迫ってくる台風よりかは早く動けるし、自然界からの逃亡には日常茶飯事だけども。
「――この通信には聊か不審とでも言いましょうか。不可解さがあるようです、白服の連中が使うものとはこう、別の聖櫃の独特なともいうべき節回しのような暗号でして。我々も、メルリヌス嬢から乱数表を渡されていなかったら解けなかった。そんな類の」
「ふむ、あて先が違うか」
近海に聖櫃の関係者があればいいな、か。
或いはピンポイントで補足したから、こうした回りくどい方法を利用した。
そんな不審さを彼らに抱かせている。
「ほぼ潜水状態にあった本艦を狙い定めたかのような、罠と言う可能性も」
罠を敷くのであれば、救難ビーコンでいい。
聖櫃の暗号が解けるかなんて博打もいいところだ。
「宛先が我々だとして、彼らは何を望む?」
発令所の海図台を挟んで睨み合う将校たち。
上半身がシャツか裸だから、一見しても誰がどんな役職で階級は何かなんてわからない。
けど、彼らはこんな男気ムンムン立ち籠める中で、もくもくと仕事してた。
中にはそうした性癖もあるかも知れない。
ただ、いちいち考えてると。
仕事できなくなるよね。
ボクにも分かる。
「藪を突いてみるか」
無視して友軍だった時の方が少し、心が痛む。
皆の頭が縦に動いてた。
納得はしてくれた模様。
◆
“コウテイ・マンタ”から飛び立った、ペンギン型のゴーレムは着弾観測で上がった訳では無かった。
最浅度で潜航して辺りを伺ってた船に注目してて。
これの軍旗が揚がるのを待っていたのだ。
そして――あの電文。
「上手くいったようですね?」
作戦の提案は、十恵さま。
あー、えっと。
今はセラフィムなんちゃらって名前だったかなあ。
もう、いいや。
忘れた。