- C 759話 マリアナ群島 遭遇戦 9 -
“コウテイ・マンタ”のブリッジにウサギ艦長に代わって、椅子を温めるのはキルダ・オリジナル。
この聖櫃騎士団追撃部隊の最高指揮官である。
ただ今、事情が変わって聊か、複雑な事情のど真ん中にある。
えっと。
地獄の一丁目一番地みたいな...感じだろうか。
「ハナ殿からの電信です」
細長い短冊が、キルダの下へ。
「本気か?」
短冊を渡した者も、単に送られた短い言葉を書き起こしたに過ぎない。
ここに感情の申請書は、ちょっと難しい気もするし。
不謹慎にも。
「いや、確認だ。...っ、雲の切れ間でも利用すれば、確かに敵艦の攻撃も容易だろうが。敵方にこちらの身バレをしてやることもないだろ。いや、マルの事しか目に入らないあの義妹バカが、こうも焦ったことをさせようとするのだ」
壁に掛けられてる黒電話の受話器が上がってた。
しかも、少し前からスピーカーフォンにもなってて。
「結局、狙撃?」
その声は。
舷側砲甲板に出向いてる巨乳姫。
シーモンキー族の将軍だが。
なぜ、そこにあるかは不明。
「ウサギが仮眠中だからな。私が、代わってやってるのだ。フィズらにもう一度、観測機で飛んでもらいレーザー誘導でもして貰えれば...な。この軍艦の火器システムを利用すれば、スマートな撃沈も可能だろうが。どうも非効率的だ」
汗でぐっしょり濡れて、オイル塗れのボクを吸いたくて仕方のない、ハナ姉の限界と。
夢心地だった彼女の眠りを妨げたことで、苛立ちがマックスにある。
そんな寝不足な軍師が出した攻撃要請。
疑われても仕方がなかった。
あ、いや。
ハナ姉が寝不足なのは“湖の乙女”号の発令所のみの知るところで。
そんな彼女でもいいからと、傍らに置いているのがヴィヴィアンさんなのだ。
本当に後悔しない?
と、数度の念押しをしたのはハナ姉本人だ。
◆
潜望鏡深度までに浮上した船がある。
およそ6メートル下にセイルがあって、カメラがぐるりと見渡してるとこ。
「今、電信が。読み上げますか?」
発令所の連中は上半身、裸のいかにもガラの悪そうな連中だ。
が、その中ではかなりまともな男が頷く。
「泉州王、摂州王殿下ともに旗艦に移られたとのこと、また」
相槌が打たれて。
「大鳥島の浮島の掌握に成功したそうです」
別動で浮島には千人の兵士が紛れて、上陸し。
まあ、瞬く間に各要所の制圧に掛かった訳だ――数時間の激しい戦闘はあったみたいだけど。ウェーク浮島が観光用施設でなくて良かった。まあ、表向きは農政事業が展開されている、王国の自給率向上が研究と生産、出荷される生命線ではあるんだけど。
所詮、軍事基地。
水面下には巨大な軍事施設が隠れてた。
千人から成る懲罰大隊の証言だと、稼働実験にまで漕ぎつけた、外強攻殻フレームによるパワードスーツだという。装甲殻には魔術紋が彫られて、耐性の強化や対物理強化などが図られてたとか。
「ふむ、動いたな」
「それともう一つ...聖櫃へのメッセージが」
やや、不審そうな空気が。
セイルに満たされる。
いや、これは誰かのワキガの可能性も...