- C 755話 マリアナ群島 遭遇戦 5 -
最早、誉め言葉にも聞こえるのだから。
心地よくも感じるなあ。
「この巨大な炉は、閉じ込められている“大精霊”が飽きさえしなければ、理想的な飼い殺しの道具だと思う。...っ飽きさえしなければ」
この中で一番、小柄で華奢なのはボクだろう。
軍事訓練だとか、或いは防災訓練だって参加したことのない、ボク。
聖櫃の連中だってすべてが軍人ってわけで、働いてるわけじゃないと思うけど。
それでも最低限の教練は受けてるんだろう。
それは顔つきでわかる。
あれはエサ子の魅せる顔だ。
ヴィヴィアンさんも、ハナ姉と似た雰囲気で戸口に立ってる。
こりゃ、怖いなあ。
でも...
「――“大精霊”に気持ちよく働いてもらえるギリギリは、おそらく3週間以内。アホみたいに巨大化させたのは、この檻の強度や耐久の不安さからではなく。これら精霊の“気持ちよく”に起因する。つまり、聖櫃騎士団は愚かにも、大精霊を従えさせるのではなくお友達になろうとした!!!」
不機嫌な大精霊がボクの真後ろにある。
もう、正規の精霊炉から魔力の吸い上げは行われていないんだけど。
なんか微妙に怒ってるっぽい。
精霊の精霊らしい“精霊言語”。
耳障りで、キィーキィー鳴くのが特徴な高周波音。
えっと、黒板に爪を立てた音に近い時がある。
こう背筋が寒くなる、アレだ。
背中のソレは、こう言っている『契約が満了したのなら、とっとと解放しろ』と。
エネルギーの分際でよく吠える。
ボクの心に沸く黒い感情。
そうした時は、よく表情に出たものだけど。
ああ。
やっぱり、ヴィヴィアンさんの後に入ってきたハナ姉に、ボクの悪辣なのが見えたようで。
「マル殿!!」
イケメン副長さんが、上段から駆けるでもなく降りてくる。
いい女がいるところには、いい男もいるようで。
ヴィヴィアンさんとこの副長さんも、芯のある誠実そうな兵士のよう。
「後ろの精霊が解放しろと煩いんだけど?」
そんな会話をするつもりはなかった。
なんでか口から出た、言の葉は――意地悪な言い方になって。
「お察しの通り、我々はマナの一部で誕生した“精霊”を、エネルギーだと割り切ることはできなかった。およそ何かしらの気まぐれで、彼らも自我を持ったわけだから。せめてその他の解放者同様に、労働条件を決めて使役するという...ま、理想でしかないか」
なんて至極まっとうな考えの、真面目な回答だった。
うーん、こりゃ。
ボクが見誤ったか。
◇
巨大精霊炉から“大精霊”が、解き放たれた。
と、同時に2基の予備精霊炉の“小精霊”は金切り声と、断末魔を上げて1グラムも無駄にならないエネルギーへと位相された。これは確かに悪魔の所業だろうけども、その悪魔だってここまで非道じゃない。
さてボクの改造を受けた精霊炉には常に“小精霊”ひとつが満たされる。
その召喚術式は、通常に非ず。
「お前の義妹は、あれは恐ろしいな?!」
副長さんは発令所に戻り、指揮を執り。
ヴィヴィアンさんはハナ姉と女子会中。
ボクは皆から『悪魔』と、罵られることに快感を思えてたとこ。