- C 753話 マリアナ群島 遭遇戦 3 -
精霊炉へ、ボクは足を向けた。
傍らにあるのは、助手を買って出たコロネさんだ。
409大隊は魔力装置に長けた、技術者でもあるからだ――が、聖櫃の技術を前に自信が無くなる。
見事な動力炉だと思わされた。
ボクも大きさに圧倒された、クチ。
「なんで、もっと小さくしないんだよ」
「は?」
「え?」
肩をすぼめて細い目になる、ボク。
だって、アホみたいに大きいじゃん。
無駄にデカすぎ。
◇
精霊炉の中をモニタリングできる装置がある。
案の定、風属性の精霊がつまらなそうにしてた。
そりゃまあ、娯楽もないのに過重労働で働かされてるんだから、不平不満もでるものだし。
炉内に掛かれた魔法陣の指示に従って、やる気のない“風”を吐き続けてた。
これら生成された風が、各艦の隅々に行き渡る酸素になる訳だ。
が。
どうしたものか。
「マルさんなら?」
ああ、ボクならか。
そうだなあ急場の凌ぎなら、妖精の召喚でもするかな。
ただ、飽きたからと言って炉内から、妖精だけ解放するとなると。
「それは問題がありますね」
「そそ。じゃあ、何で自分も解放されないんだと。牢獄の中にあるというのを意識させてしまって、手が付かなくなる恐れがある――っ、だから荒療治だけども」
ボクの意図でも汲んだのか。
コロネさんの瞳に炎が宿り、逞しく頷いてくれた。
「新たな炉の建設ですよね?」
「今のような完全無欠ではないけども、要所にだけ必要な酸素が行き渡れば」
そう、ワンチャンスだけでいい。
すでに蓄電池に余裕もなくなって、電気推進でスクリューを回しているところ以外の灯りは赤色灯へ。
そうやって節約の刻となってた。
「通常は、魔導力炉からマナを抽出してタービンを回す、ハイブリッドだから。その過程で予備の電池に蓄電できなかった電力に精霊炉への転用って流れで...いいよね?」
機関室長に尋ねた。
まあ、概ね好感のある返事があって。
計器類と睨めっこのコロネさん。
なんかタヌキっぽくてかわいい。
これはボクの主観。
「簡易精霊炉、それをイチから作られるので?」
なるほど。
そう思ったか。
ボクは首を横に振って...
「たぶん、これだけ大きい施設だから、さ。試験運用時にいくつか連結運転させた、予備として休眠させてあるんじゃない?(ボクだって、周りの顔色くらいは見ているさ)」
“湖の乙女”号が艦級の1番艦じゃない可能性は、ボクの中に無かった。
およそ、これが試験配備も兼ねてたと考えたんだ。
だって、大きすぎる。
勢い余って大艦巨砲主義って訳でもない。
まあ、潜水艦に大砲を載せようってのは浪漫を感じるけど、歴史がそれを赦さなかった。
英国の“X-1”しかり、同国の“M-1”しかり、仏国の“スルクフ”しかり。
あとは勝手が違うけど、日本の“伊400”もか。
コンセプトは違うだろうけども大型化していく流れは、まあ似たり寄ったり。
そういう意味では。
聖櫃は知識としてありとあらゆる世界の非常識を知っている者たちだ。
だからこそ、浪漫だけでこんな船は作らないだろうと...思うので。
「ご明察通りですが」
ああ、やっぱり。