- C 752話 マリアナ群島 遭遇戦 2 -
「精霊の連続召喚のリスクが生じてきたのさ」
それでもピントは来ないけど。
汚れものに埋もれてた野獣が機微に反応した。
「まさか、小型酸素ボンベの支給?!」
「そうだと思う」
絶望したようなエサ子。
いや唐突に泣き出して、ボクの汗染みの付いたタンクトップで。
ああ、何やってんの?
「今の内だから、吸いこむだけ吸い込んでマルちゃんを忘れないようにしてる」
ふぁっ!?
エサ子はボクを吸ってた。
何時ものことだと思うだろうけども、尋常じゃないというか。
絆創膏が巻かれてたとこが。
白く変色すると、格別な腐った匂いを発すると思うんだが。
それが何とも言えない香りに感じる時がある。
まあ、今んとこ。
フェロモンと言うか、彼女はそれを感じてるという。
いあ、それ単に汗臭いだけで。
「な、何を言うか!! 今、自然に嗅げるうちが花なんだぞ!!!!」
ハナ姉まで。
ボクの周りには変態しかいない。
◇
空気の配給制。
それが始まる危険性が生まれた瞬間――精霊炉の連続運転時間は、試験上(=試算限界点)で22日前後。通常運転である場合に限られた計算だから、それ以前に追跡されてたとか爆雷から逃れるために最深度近くまで潜り込み、殆ど無音航海なんぞも行わない条件なのだから。
それ込みだとすると、やっぱり計算が変わってくるのは当然だろう。
この14日は試算限界点に近い数字である可能性。
「マジで」
発令所に戻ってきたボクに、ヴィヴィアンさんが打ち明けてくれた。
頭を抱えたくなってきた。
精霊炉の精霊に、目に見えてストレスがあるということ。
時々、癇癪を起す時がある。
「それダメじゃん」
「ああ。悪いことが重なって申訳がない」
ただし、その悪いことを引き寄せているのは、たぶんボクらである。
しかも、その不幸の神さまは...。
面白そうだとか思ったのだろう、東洋艦隊の先遣隊に鉢合わせさせてくれたようだ。
余計なことを!!
「カメラブイを上げて分かったことだが。こちらの進行上に“大鳥島”浮島があるようだ」
こんな太平洋のど真ん中で、どんな的中率だろう。
先行する“聯合艦隊”の方は偵察型軽巡を伴う、6隻の戦隊。
水上速力は、巡航だとして12~14ノット程度。
戦闘ともなれば20ノット以上は上げて、追撃してくるに違いない。
あとは、浮島の戦力だろうか。
一時の補給なんかも考えれば、偵察の後に続く本隊も、ボクらと同じ航路になるだろう。
さすれば、やっぱり一戦交えることになるかも知れない。
「浮島からの航空兵力は避けたいな」
同感。
拗ねる精霊、迫る敵勢力。
どちらも何とかしたいんだけど。