- C 750話 集え、我が猛者ども 10 -
一方、ボクたちはゆっくりと南下してた。
台州から真東に進んだのちに、水中速力7ノットで進行する囮魚雷を射出。
そのあと、駆逐艦らが釣られていったのを確認してから南下したのだ。
旧時代、この付近には沖縄と呼ばれた群島があった。
が、天変地異後の星には、そんな地域はどこにもないんだけど...。
まあ、あれだね。
もっとも、日本列島も無いから。
きれいにすっかり様変わりしちゃって、ここら辺の海域は途方もなく広い“東シナ海”って呼ばれてた。
おっと。
忘れてたけど。
台湾って名の島なんだけどね。
実は残ってる。
大陸の端っこに乗ってたのが幸いしたんだと思うけど。
全部が海中に没することが無かった。
旧時代の地図と比較すると…
沈んじゃったほうが良かったかも、中途半端に残ってるんで――山だった部分が僅かに残って、小さい島になってしまってた。
住民はいないようなので、海鳥とペンギンの楽園と化している。
なんで住民が居ないのかって?
そりゃ、住めるような平地が無いからだよ。
島の周囲は断崖絶壁の岩肌の露出。
毎年数ミリが崩れているありさま。
なんで残ってるのが不思議なくらいに、聳え立つ。
で。
こんな場所だから海鳥が、天敵も寄り付かない場所として。
子育てに選んだって事だろう。
自然って凄いねえ。
◇
さてさて。
“湖の乙女”号はもう連続潜水時間が14日に迫りつつある。
こんだけ潜ってれば、ストレスの一つくらいは抱えるものだけど。
さて~
聖櫃の乗務員たちの献身さは、見習うべきところが多い。
特にボクたちは、だ。
聖櫃が運用する多砲塔潜水艦は、現時点の列強と比較すると。
(個人的には比較にならないと思うんだけど)
全長では列強最大の潜水艦に匹敵するか、或いは排水量でも凌駕する部分がある。
極めて巨大なな船体であるのだ。
当然、全幅も一回り大きい。
140ミリ近い大砲を連装式で砲郭に収め、6門もの火力を持つ。
当然、斉射に耐えられるような復元力が、当艦に与えられている訳だから。
排水量だけで見ても、他の追従を赦さないといったところだろう。
ともすれば。
艦内の空間は広く作られていた。
こう、圧迫感が少ないだけでも心理的にストレスは溜まりにくいものだ。
そうした中で...
ボクは何をしていたかと言うと。
再設計し、改修した水陸両用ゴーレムに入り込んで、今もラボの延長みたいなことをしてた。
小型潜水艇としての機能の追加。
潜望鏡とセットになったペリスコープ付き砲塔。
こいつはエサちゃんが仁王立ちで踏ん張って貰って、思う存分に射撃できるよう手配したもの。
...は、カタログ上の建前で。
降ろそうかとも思った武装なんだけども。
エサちゃんが泣いてお願いしてきたから遺した遺物――ま、ボクは寝転がりながら、彼女のパンツが見れるんで、これはこれで満足である。
エサちゃんの白地に青の縞パンは、眼福なんだよね~ボクにとっては。
――と。
その真後ろには心配性なハナ姉がいる。
更に汗ばむほど密度の艇内には、ボクの脱ぎ散らかしを嗅ぐエサちゃんがあった。
ウナちゃんは、元409魔法大隊の百数十名とともに新しい仕事に従事しているし。
魔王と吸血鬼なんて組み合わせは戦力的にもちょっと、面白いかも。
アロガンスも、食堂の奥でしばしば見かける事がある。
料理長とジャガイモの皮むきに従事してた。
みんな複雑な思いがあるんだけども、それぞれに仕事をみつけて対応してる。
働かざる者、食うべからず...だ!!!!
◇
『艦長より、全艦へ通達』
ヴィヴィアンさんからの最近では珍しい放送。
『残念なお知らせをひとつ。振り切ったと思ってた東洋の沿岸警備だが、今しがたレーダーに光点のひとつが見つかった。未だ、こちらを見つけてはいないようだけども、このまま深深度を維持する必要になった!! それからいいことをひとつ通達する...』
皆の喉が鳴る。
ボクはこの放送に耳を傾けてなくて、
ハナ姉だけが聞き耳を立ていた。
「マル、聞いてた方が」
「いいよ、別に」
この船の空気は、精霊魔導炉ってのを利用している。
燃料こそは“マナ鉱石”が利用されてるけど。
余剰で生まれた魔力を、かき集めるようにして“風属性の精霊”召喚が行われてた。
この時、ボクはかなり安易に考えてた。
いくら聖櫃の技術だからって、彼らのものも万能じゃなかった。
長時間潜り続けたツケが回ってきたんだ。
だから、ボクはちゃんとヴィヴィアンさんの話を聞かなくてはならなかった。
少なくとも。
ハナ姉に肩をたたかれたときに。