- C 749話 集え、我が猛者ども 9 -
王都の海域から脱した、エンカウンターとそのクルーは演習艦隊と合流するべく、南下してた。
目的の海域は“大鳥島”の浮島付近。
演習目的で島の管理者から、再三の要求を突き放してる艦隊がある。
まあ、そりゃそうだ。
意図はなんとなく分かる――同じ国の旗を掲げて、少なくとも交信の意思疎通くらいは、応じてくれているのだから。同じ言葉と、同じ文化圏の連中だって事までは――ただし、意図は推測できても行動の予測は難しい。
警戒を怠ればオオカミに代わるかも知れない。
『嫌だなあ、間違っても友軍にそんなことしませんよ』
応答してくれる将校はいつも同じ。
へらへらとニヤケ面の甘い青年風。
そんな形でも、三十路は超えた将校だというから耳と目を疑った。
『ああ、一人称ですね。この一人称が良くないんだ...ま、しかしですね、ボクの...コレは直しようが無いんですよね。もう、板に付いちゃってて、ほら。違和感も何もないでしょ?』
違和感はある。
が、あまりに容姿が怪し過ぎるのだ。
交信に応じてくれる者は彼一人だけ。
他の人間だっている筈なのに、必ず、どんな時でも彼が出てくる。
例えば寝込みを襲った時でも。
枕を抱え、ナイトキャップに左右逆の靴とネグリジェ姿。
今一度、確認のために言及する。
彼は、男である。
◇
『これでもかなり真摯に向き合ってきたと自負するんですけどね』
交信相手も二度、礼を尽くした。
誠実かどうかはアテにはしない。
ただ、所属の開示を求めている。
お前らは、海軍なのか...
或いは陸軍なのか。
大鳥島の浮島管理局から発するものも、受信するものも何もない。
この何もないが怖い。
艦隊が無線封鎖しているせいとも思えるし。
ではない可能性も。
『浮島電波塔が正常なら、単に中継塔が近くにない...そんな可能性はどうでしょう?』
浮島ほど大きな人工島ではないけども。
中継塔がある巡回島の動きはランダムだ。
それが移動している間、要は範囲内に収まってないなら。
まあ、短くて数日。
長くても10日は無線不能状態になる。
『でしょ』
癪に障る顔だ。
『これでも夫人の人気はあるんですがねえ』
陸に上がれば、だが。
同僚の女性たちからは「嫌、無いです。ありえません、気持ち悪い」なんて散々で。
いまいち人気のほどが分かり難い。
『素性が明かせない理由は、実戦を想定した演習の最中なんです。ま、じゃあ、これがあと何日続くのかと問われるのも、詮索しないで欲しいとしか言えないんですが。聞いてきますよ、ね?』
頷く。
当たり前だ。
海域の目と鼻の先には重厚なる鉄の城、戦艦が幾隻もある。
浮島の対水上レーダーに映る光点の数と規模が出鱈目に兇悪だから、不安なのだ。