- C 748話 集え、我が猛者ども 8 -
魔術師が“絵”を描くと、
まるで呼吸でもするかのように、熾天騎士の4人が動く。
絵図は、こうだ。
4人は浮島の動力炉、指揮所、環境管理局、武器庫。
これらをほぼ同時かつ電撃的に強襲する。
これらは中枢であり、頭脳そのもであるから。
頭を潰した節足動物は、まず何が最善かに対して、極めて単純に動くようになる。
この場合のモデルは“ムカデ”なんだけど。
それぞれの司令塔から、直接、あるいは間接的に近しい組織を調略していく。
気が付けば、瞬く間に“布哇島”の主要施設を掌握。
極めて組織図から遠すぎた、沿岸警備隊が港に戻ってくると――桟橋には火器を構えた兵の姿が。
最初は何かの冗談だろと道化だった者も。
船から放されたとこで、聖櫃の裏切り行為であることに気が付く。
◇
「裏切りか」
監房の壁と外。
鋼の扉の外に、魔術師があり。
内側に“布哇島”管理局長の宦官さまがある――たしか、陸軍の准将相当とか名乗ってたか。
「我々は技術供与をして、その見返りにマナ鉱石の取引だった筈だ。散策中の姫を誘拐し、人質にして脅迫したのはそちらであろう? 誰が首謀者で誰の献策であったかはこの状況では無意味である...敏しいあなた方ならば理解しているのだろ?」
政治の中に身を置いている人間の感覚器官は鋭い。
故に、各施設から救難信号が出た一寸で状況を悟った。
島の中央、カルデラ湖に降りてた巨鳥には、島全体で申し合わせてた。
“触らぬ神に、祟りなし”...と。
禁を侵したのは白服である。
同じ組織の者だからと、やはり考えが甘かった。
もっと強く止めれば良かったなんてのは、後の祭り。
「裏切りじゃないとすると、被害者を気取るので?」
東洋の宦官は、どちらかと言うと。
去勢された方々。
睾丸を外科手術で切除して、生殖機能を奪った。
貴族の子弟から、市井でも生き難くなった若者たちが門を叩く。
だから、北天などの宮殿にある宦官となると、少し毛色は違う。
竿があるから、そうだなあ。
完全に失ったとも言い難く。
去勢された馬の如く、気性が荒くないように調整されたと言えば。
とはいえ、野望も何もかも失った訳でなく。
それぞれの欲は確かにあって。
羨望とか物欲に色欲...
――権力欲。
「白服とあなたがた、私たちの目から見ると同じ“聖櫃”にしか見えんのです。ま、最近ではその白服の者たちが好き勝手されているようですけども。そうなると、この理屈...聖櫃の一部である彼らは誰がしかり付けてやるのでしょうなあ?」
扉向こうの彼からの嫌味だ。
手錠に繋がれた宦官の長。
足枷もあってまるで罪人のようだ。
「で、これはなんでしょうか? 罪人、捕虜...それとも、奴隷?」
「ああ、立ち位置か。どれでもない...現地人は等しくただのNPCだよ」
俺たちがその立ち位置から解放しなければ、一生そのまま...と、扉に投げかけてた。
ま、その部屋の宦官には何の話かは、理解できなかったんだけど。
魔術師の方は酷く疲れた溜息を吐いてた。