- C 746話 集え、我が猛者ども 6 -
何百発? いや、集中された銃弾が、やや赤みがかった壁のような“力”によって止められた。
運動エネルギーが瞬時にゼロにされたような。
いや、今も火薬の燃焼と発したガスのエネルギーで、弾丸は前に進もうと藻掻いている。
しかし、それを同じ力で押し戻そうとするもので遮られていた。
「これが魔法城壁だ!!」
魔術師が『滅』と叫ぶ。
数百の弾丸が消し炭になって消えた。
「悪いが蒸発させた。俺は奇術師の類じゃないからな、こういう方が得意なんだ。...っさて、物覚えが悪い俺に今一度、何が欲しいか言ってくれ。白服どもは何が遣りたいんだっけか?」
これは優しく尋ねてる方。
ま、調子に乗れば...。
銃弾と同じ末路を千人の兵士と共に味わう事になる。
◆
そんなごたつきが、布哇の浮島なんかで発生しているとは露知らず。
聖櫃の総長ことメルリヌスは、清浄油まみれの匂いの中で左右に揺れてた――何といっても、心地よい金属音が聞こえ、どんな香水や香木よりも、エンジンオイルが大好きな変態である。粘り気のあるグリスや、雑味の無いさらっとしたオイルの中でなら、ぐっすり安眠もできる。
「いや、めっちゃ変態った娘だな」
そんなささやかな事で、驚きなさんな。
機械いじりの好きな女の子だっているって話さね。
雅な和装に馴れはしなかったけど。
ツナギが壁に掛かってるのを目撃するや否やで、ひっととび。
これ、着てもいいですか?
袖通していいですか、今、パンツ一枚の肌着になりますんで着ちゃいますね。
なんて早口も早口。
まくし立てながら、ぽんぽん服を脱ぎ捨てる子がある。
「やっぱ、変態じゃねえか」
「うん。そうだった」
軍団長も呆れたけど。
整備班長が騒ぎつかれてて...
「洗濯前だぞ、それ!! 着るんなら新しいのを」
ビニールに包まれた新品を抱える兵士とか。
ローテで夜勤の青年兵が「俺のがねぇー!!!」って騒ぐもんまで、一動作。
「へっへ~ん、これがいいんだもん!」
油まみれの両手で鼻の頭を擦る。
そりゃみたことかと、黒いオイルが顔に真一文字を描いてて。
「ううう~ん最高! この匂いが最高!!!」
格納庫に天使が舞い降りてます。
◇
踊る食堂、凍る沿岸警備兵。
「で、このまま停船してても“こちら”は、構わないんですけど。どうしますか?」
どうしますかってのは、訓練海域にまで足を伸ばして職務、果たされますかってトコまで入る。
沿岸警備隊の職域ってのは、王都ドームを中心に半径60海里海中・海上だ。
エンカウンター号の船尾がギリギリ範囲内にある。
後進したら、警備兵が脱兎のごとくブリッジに駆け上がって、制止を促すだろう。
いや身体を張って止めさせるかもしれない。
「いや、いい」
摂州王のにやけた表情に怪訝な目。
明らかに疑ってるけど。
軍人たちの棲み処に4、5人という戦力で飛び込んだ手前、下手は撃てない。
浮上して、仲間の帰りを待つ潜水艇もまた、人質である。
「今回は、こちらも根回しが必要であった。が、この甘さは一度きりである!!」
「了解した、警部殿」
返答にやや困った警備兵。
「私は、警部補だ」