- C 744話 集え、我が猛者ども 4 -
格納庫にあるふたりの下にも、種明かしのような“烏”からの報告が届けられた。
「謀ったなー!!」
とか。
泉州王は壁に向かって叫んでるんだけど。
艦尾の格納庫から、艦中央部にある士官の食堂まで声が届くわけもなく。
金属音が空しく木霊してた。
整備士らからは「何か言いました?」と、質問されて。
軍団長が「なんもねえよ」返答する。
◇
懐から銀縁のメガネを取り出す。
老眼鏡だと、メルリヌスに告げた親王。
「上出来だよ、まさかそう来るとはね。って事は?」
出歩かないように監視はしているけども、自由を奪っている訳でもない。
雀卓みたいなのが用意されて。
パイプ椅子が、それぞれ卓の端々に置かれ...
「この計画ってどこまでがアドリブなのですか??!」
メルリヌスもいいところ突く。
どこまでが。
思いつく限り全部かもしれないけど。
「長孫を担ぎ出したところだろ?」
「いえ、殿下の発案ですよ。泉州王さまをお助けするのは、可愛がってもらった長孫の義務であると申されまして。殿下の側近と“烏”どのらを交えて、入念かつやや緩みのある実に伸縮自在な策でした」
懲罰軍団が姿を消したのは、政府の意向だろう。
白服の行動は予測不能だったし、彼らの意に従わない政府は目障りでしかない。
旧時代の遺産が多い、海軍も。
陸地もないのにドーム型海底都市のそれぞれに駐留する、陸軍。
何れは解体されるであろう、予感があったからだ。
そんな時に手付かずの軍団は危険だ。
どう考えても、よからぬ使い方しかされないだろう。
「大伯母上かあ、なんか尻の穴が痒くなるなあ」
親王が身を捩る。
実際に痒いわけじゃないし。
彼女の身体は未だ、新品である。
まあ、その...
夜の街へと飛び出して、男娼を買ったりしてないってことで。
「でも、摂州王殿下は何処から?」
メルリヌスでも、皇族五家は給長の指導により修めてある。
ただ、全部が全部では無いんだけどね。
「ま、恐らくは。ほぼ同時だろうなあ」
緩急ある策だと言った。
烏が手配した連絡艇は多数ある――追跡が出来るようにしたのは、恐らく泉州王座上艇のみ。
他の連絡艇の航海申請は本物か、或いは私用という扱いにした。
これを臨検した、沿岸警備局は当然、海軍や陸軍の参謀本部から猛抗議されてる筈だ。
彼らは『公務である!』を突き通した。
「気の毒でならないな」
「気の毒ですか?」
軍団長が湯飲み茶椀を掴む。
太い腕から生えた大きな拳に小さな椀――おちょこみたいだ。
「気の毒だよ、職務とは言え...本来、怒鳴られるべきは“特高”の連中だろ? 事前に根回しもせず、警備局の上層部を後宮府の太鑑(=宦官の長官)あたりから、顎で動かしたのだろう」
いうて女王直下の組織。
元帥府・後宮府・政府と横並びの組織だけど。
長い年月の末に、この三者の力関係は大きく変化した。
後宮府と元帥府が同格、政府は後宮府の下についてた。
あちゃー。