- C 741話 集え、我が猛者ども 1 -
沿岸警備隊の潜水艇がゆっくりと、連絡艇に寄る。
『停止指示に従い停船、ご協力に感謝する』
マニュアル通りの通信が入り、スピーカーで聞く親王が含み笑い。
メルリヌスも衣装ロッカーから適当な、女性将校衣へと着替えてた。
いち兵卒から、秘書官の上等兵へ。
「メルリヌスちゃんは、何を着ても似合うね。うんうん、可愛いなあ」
茶化すような物言い。
制服を着ると、こう背筋が伸びるような気がする。
目の前の将校からは逆の印象があるけど。
こう、気が抜けるというか。
「そうそう、少しは肩の力を抜いてなさい」
『閣下、呼びかけに応じてくれましたよ?!』
操縦席の艇長から。
どうも後方からにじり寄る警備艇じゃない感覚。
「ああ、友軍が来てくれた」
◇
水をかき分ける音が聞こえる。
「感あり、4軸のスクリュー音です」
客室から操縦席へ移る親王。
たぶんじっと座ってられなかったようで、
「後方の警備艇はきっと、慌てふためいている頃だろうねえ」
悪戯っぽく微笑み、
鼻頭を軽く搔く。
「どういうことです?」
メルリヌスも、客室から這うように操縦席へ。
そこ入口が狭いんで...
親王の脇下から覗き込むように首が出てた。
「嘘偽りの航海申請ではないってことさ。一応は、それらしく目的があるように見せる必要があってね、ただし、訪問する船の名は正確ではないってだけさ。東洋の所帯にありそうでない...そんな感じの艦名にしただけさ」
烏が申請しておいたのは、南太平洋に訓練にでている海軍艦艇ということにしてた。
1万トン以上の規模を誇る防空重巡洋艦への視察。
海軍には計画案はあるけど、白服の横やりにより着手までに至ってないし、そもそも予算や物資が掠め取られているのが現状で。
政府と元帥府間では、こんな事の為に内戦が勃発しそうな、憂いもあった。
「で、は...何が来たんです?!」
「うん、いい質問だ!! 元帥府で密かに建造して、陸軍特殊部隊に貸与しておいた...ゲイロック級エンカウンター重航巡さ。規模は2万トンを超え、運動性は32ノットを叩き出す。わりとタフな恰幅と、ガチガチな装甲帯で重要な区画を重点に押さえた。まあ、政府には贅沢な旗艦だろうさ」
元帥府を開く以前。
泉州王は、その身を陸軍学校に置いてた。
私兵を持つに至る経緯は後日として、第二の海軍としたのはまあ、成り行きで。
親王の友人たちは今も陸軍の方が多い。
で、エンカウンターから...
『殿下。お久しぶりですけど、お時間は丁度良かったでしょうか?』
なんて通信が平文で打たれた。
当然、泉州王を追跡している警備艇にも届いたし。
鼻息も荒くなるけど。
水上に上がる勇気はない――だって、連絡艇にアプローチしてきたのは4軸もある大型の軍艦。
警備艇はせいぜい200~300トン未満の潜水艇だ。
自衛用に艦首に2門の魚雷があるけど。
とても威嚇になりはしない。
慎重に行動し過ぎた。
いや、コーストガードとしては仕事した方だろう。
あと数キロメートルも前進すれば、公海に出るし。
「やあ、クロワザードのみんな...元気だったかい?」