- C 740話 王都脱出 10 -
「ったく、何なんだ?! っ、あのゴーレムは!!!」
領海警備に当たってた駆逐艦が、低空飛行中の識別不明瞭機を発見したのは、数刻前。
国際基準のオープンな回線を用いて、当該機に“領空侵犯である”と通告して半刻は過ぎた。
が、返信が無いので威嚇射撃したら...
爆雷が降ってきたとこ。
およそ、今、ここ。
「爆雷の接触による本艦の損耗は軽微ですが、こう何度も上空からばら撒かれては...」
水雷防御装甲の方もガタつく。
「無言でばら撒いてるの爆弾じゃなくて爆雷ってのが気になる、な」
顔の前で手を揉む艦長。
一度は、諦めた態で追撃を止めてみたけど。
怪鳥ゴーレムの方は、低空に舞い戻るとソナーブイを投下して。
豪快にも情報収集をはじめだしたわけで、慌てて当該海域へと戻ってきたところだ。
「撃ち落としましょう! 艦長」
砲術長からの進言。
あちらは撃ちたくて仕方ない。
威嚇射撃で空撃ちしたから砲身あったまっているし、ややストレス気味でもある。
◇
「なんか、砲術班から“撃たせろ”って呪言みたいのが聞こえてくるんだけど?」
舵輪を握る副長に泣きつく艦長。
「じゃあ、撃っちゃえばいいじゃないですか。このまま、放置も良くないですよ」
領海警備に回されるような老朽艦が本艦。
最前線の駆逐艦と比較すれば、1200トンは排水量が少なく小型で。
小回りこそ利くけど、単装の120ミリ砲はやや今の状況でも頼りない。
「――言っちゃあ、陸に上がりたかったロートルな訳で。安全だって言われたから引き受けたようなもの...他人さまの頭上から爆雷撒くような痴れ者なんかと、誰が戦いたいかよ!!!」
「それ、ぶっちゃけ過ぎです。同期の小官さえ引く台詞、部下も聞いてますんでご自重くださいますと宜しいのですけど。と、まあ助言いたしますと...爆雷投下しているゴーレムに入ったのは、本艦の...前に出過ぎと言うやつでして、これをもって大義は得ているものと断言できます」
船上ではなんか煮え切らない艦長と、イライラしてる船員があって。
そんなのにお構いなく、爆雷落としまくってる怪鳥ゴーレムがあった。
◆
泉州王と総長を乗船させた連絡艇は、王都領海の端で停船した。
「臨検だそうです」
軍帽を深々と被る親王は口端を緩ませ、
「マニュアル通りだな」
「そのようで」
客室の親王に余裕がある。
その余裕は、伝染するようで操縦席側にも感染してた。
「浮かない顔のようだ」
「当たり前です! ここに意図しない兵が乗り込んでくるというのでしょう?!」
そのとおり。
烏が用意した偽装連絡艇が今、まさに捕捉されたとこ。
親王は偽装がバレたかもなんて呟いてたけど。
「臨検ってのは“怪しいから行う”もんでもない。一つは時間稼ぎ、もうひとつは嫌がらせの場合が多々。まあ、こっちの方は後者だろうけども...沿岸警備の連中が強制拿捕の手段を行使しない時点で、まだ工作がバレていないと見るかな、半々だけどね」
半々ーっ?!
頼れるのか、頼りないのか。
メルリヌスが頭を抱えてた。