- C 737話 王都脱出 7 -
「還魂で、魂を別の器に移す外法にはそれぞれ、厄介なことがついて回る。この術が未だに不完全なことであるが所以なんだが...先ず、移し替えた先の器が原形のソレに近く引き寄せられる。魂が記憶しているからとの説が、もっとも有効だろう」
って親王は、赤面するメルリヌスへ膨らむ胸を見せてた。
張って辛そうな親王を気遣ったのがそもそもの発端で。
軍の連絡艇に乗り込んだふたりは客室にある。
貸し切り状態だけど。
「...っその、下は」
メルリヌスの赤面は妄想も含み、
「おっと、変な想像をさせてしまったかな」
彼女の鼻から血を拭う。
ハンカチが真っ赤に。
◇
頂いたハンカチで終始、顔を覆うメルリヌス。
ちょっと恥ずかしいといった雰囲気で、俯いたままだ。
「好奇心が勝るのはもっともだと思うよ。かくいう私も、男の身体だからこそ魂が消滅せずに生き永らえている訳だけども。還魂術で乗り換えた数が多くなったと自覚したところで、この発症だ...今までは百年ほどで変容しかけていたんだけどね」
やや咳込みながら。
「――っ、もとより気にはしていなかったし。期待もしていなかったが、生殖能力はない...残念ながら、な。元の姿に戻れたならば悔いはないのだがなあ」
戻れば、即死。
あるいは腐れ落ちる類の呪いであるという。
胸を閉じながら、親王は情けなく微笑むのみ。
「聖櫃で、私たちにも診させてもらえませんか?!」
親王は彼女の頭を軽く撫でる。
「いや、まあ。この危機を脱したら...お願いしちゃおうかな」
客室にも赤色灯がともる。
親王の方は、軍人としての直感で察知。
『客室の方々、ちょっと揺れるやも知れません』
操縦席の艇長からだ。
潜水艇の索敵器に光点がひとつ。
「降り切れるなら、荒事、構わぬ!だ」
◆
その頃のボクたちも厄介ごとに遭遇してた。
白服の暴走は、東洋王国の全域にまで拡がってたようで。
「潜水して領海に入るまでは利口かと思ってたけど、とんだ伏兵じゃないかしら?!」
揺れる船内。
耳鳴りで頭がくらくらする。
今、しこたま爆雷がおとされてて――頭上、20メートル上で猛烈に弾け飛んでる。
「大丈夫、だと思う」
対物理防御の魔法盾を船体に刻んである。
改修前よりも当然、改修後の方が物理的にも、反物理でも3層、いや5層増しの装甲帯に。
それでもぶっつけ本番となると、流石のボクでも自分の腕に自信はない。
「ああ、大丈夫だとも! マルのマイスターとしての適性は誰よりも高いからな!!!」
ハナ姉は腕を組んで自信に満ち溢れている。
いあ、ボクの分まで胸を張ってくれてるような。
「どこから湧くのよ、その自信は!!」
「もちろんマルのここから」
首筋に吸い付き嗅いできた。
やー、今、冷や汗かいてんだからー。