- C 735話 王都脱出 5 -
泉州王の捕縛についての罪状が張り出される。
後宮府の禁軍は限定的な動きしか未だない。
この政策は、現女王と白服による暴走気味のもので。
現政府・首相らは“後宮”の奥にある方に配慮して、反論した。
人望があるというのは先ず、本当らしい。
だが、抵抗空しく内閣総辞職となる。
ま、当然と言えば当然だろう。
◇
新政府は、現職女王に忠実なる。
いや、男娼である白服に忠実なる政権の発足――内務省に新設された“特別高等警察”所謂、政治犯なり思想犯や、現体制への批判的な市民の口を塞ぐ徒党が組まれた。
これに泉州王の捜索も含まれて。
東洋王国が大きく間違った方向へと動き出す。
一方、女王。
後宮で啖呵を切ってみせた彼女だけど、自室に戻ったら急に怖くなった。
子供のころは、実の娘のように可愛がってくれた叔母か叔父だった――泉州親王。
皇太后と双子の片割れ。
そんな人を犯罪者と呼ぶ自分自身に恐怖する。
「如何したのです? 浮かれない表情を」
――浮かべてるのは、本人でも驚く勇ましい言動に、だ。
母が悲しむ顔も、あの時には心が揺さぶられることが無かった。
ただ、ふと術でも切れたように。
今ではただただ、恐ろしいとだけ。
「案ずる必要はございません」
寄りそう男娼。
女性のように細くしなやかな指。
気弱な女王の周りで香が焚かれて、
その小さな身体を彼が覆い包み込む。
心が病んでる人の殺し文句。
「女王には私がついている」
◆
王都の脱出が困難になってきた。
東洋王国の都市は、海底に築かれたドームの中に、都市部と農村部でひとつの施設としてある。
王都はその農村部が4か所あって構成される巨大ドームで。
外壁の向こう側は、海である。
故に、決められた港湾施設から脱しないと。
内圧と外圧のバランスを失って都市は崩壊する。
王都内を逃げ回る事も可能だけども。
「ではなぜ、そうしない?」
メルリヌスの当然な問い。
親王は微笑みつつ悲しみを浮かべ、
「それでは民が傷つく」
やや怪訝な表情。
親王が心優しいのは分かってる。
それでも、
「逃げ回ってる間に、方針が転換されることなど多々ある。私でも、そうするのだから“特高”の連中も、指揮系統が白服の連中であれば躊躇なく、他人を踏みにじる行為が出来るはずだ!! たとえ女王の心が砕けたとしても、彼らはこの国の権力を掌握した。故に......私が、王都内で逃げ回っている痕跡があれば、躊躇なく流転の民を盾に追い詰めてくるだろう」
だからこそ、一刻も早く王都というドームから脱しなければならない。
発足間もない“特高”は、まっさきに港湾施設へ出向く。
とりあえず、彼らは未だ、自分たちがどこまでの事が出来るかを知らない。
そこが盲点になると、親王は告げた。
「数々の権限が“情報三部・戦史研究科(=陸諜)”と“秘密警察・公安1~9課”、“都市警察”および“港湾警察”...あと、“後宮警察”も絡んでるな。出来たばっかしの組織にありがちな情報共有、いずれも穴が無いように思えて穴だらけな捜査網。今が一番、すり抜けやすい」
元帥府も、政府から独立させた組織に至らせるまで、調整の毎日だった。
どこかで強権に訴える必要はあるんだけど。
それは今じゃ、ない。
「親王さま、すっごい」
「あ、それフラグ立つから、脱出後に言ってね」