- C 733話 王都脱出 3 -
親王の斥候、烏と名乗る黒装束の連中は、多民族で構成されてる。
かつては、だ。
泉州王とメルリヌスの前では、何族かは明かさないけど。
彼らが情報収集中の折は、それぞれが相応しい場所で捜索する――丁度、治安部隊が“ひじり姫”を探しているという情報も、追手の動向を探ってた連中が聞きかじってきたものが。烏たちの伝言ゲームで、もたらされたものだ。
物乞いよろしく道の端で、人を見ている。
これでわざと、高等警察らの注意を惹くのだ。
国内治安と高度な政治的案件には、内務省管轄の高等警察が絡んでくる。
特に後宮府からの足抜けなる特殊事例ともなると、だ。
後宮府にあげられる女性たちは円満に冊封された者は、いない。
少なくとも、9割9分の確率で、誰かの許嫁が掠め取られてきた歴史で出来上がっている。
かくいう皇太后だって、長女だったけども。
輿入れ先は北天のいずれかの国だったという。
「そうなんですか?!」
メルリヌスが柏手を打ち驚いてた。
ま、4、500年前の話だから。
本人だって忘れてるだろう。
「貴族の子女とて、末娘を後宮にって考えるものは少なくはない。力があれば政治家や、商家だって自慢げに口の葉に乗せる者もあるだろう。が、遊女・女郎に男娼と比較しても後宮にあがる娘たちにそもそも“選択権”はないんだ。後宮府の宦官、太監という長官があってな...彼の目に叶えば、いかなる身分の女子であろうとも」
親王は少々言葉を選び直して、
「女性であれば、無条件に後宮へあげられる。そこに“他人の妻”であろうとか、あるいは“儀式の末の許嫁”であろうとかも関係ない。太監が気に入れば後宮に入って皇子たちを支える女房となるわけだが...君の場合は全くの手違いだ」
持て余した親王が後宮府に預けたら、姪の長子の嫁にされかかった。
後日、そんな話を聞いて逆に怖くなって彼女を救い出したわけだ。
が...
姪っ子こと、女王は泉州王に『反逆の意志あり』と至ったという。
皇太后は諫めたっぽいけど、聞く耳持たず。
だって、この不敬云々って彼女の寝所の民が告げ口したからで。
皇子たちの事は良く思ってないよ、あの親王はって。
洗脳してる。
「逆に後宮から下げられるって場合は...」
少し先の話を聞いてみる。
自分のように妃候補はそう多くは無いとして。
ならば、数合わせで集められた女性たちは、少なくとも後宮で暮らす妃たちの世話役なのだろう。
「ああ、多くの場合は適齢期を迎えて退職するよ」
「ほう」
少し希望が。
「10代で後宮にはいって出る頃には、おばあちゃんってのは少なくはない。後宮府に仕える武官と結婚して下がるケースは稀な方だし、およそ大半は大病や怪我のせいで下がるかな...器量が良ければ宦官が側室に迎えての方がちょっと多いかもなあ...ただ、宦官は盛んだから」
やや驚くメルリヌス。
宦官と言えば、竿と玉の無い役人と思う。
建前では去勢はされてるけど、竿はそのままである。
竿までカットすると、蝋栓で締めていても小便を垂れ流す者もあって、宮殿内が不衛生になるし臭くなる――そのために強烈な香水や香が焚かれることがあるんだけど、尿の匂いはそう簡単に拭えるものでもなく...近年では廃止された制度だ。
故に建前上、去勢はされても竿のカットはない。