- C 732話 王都脱出 2 -
貧民街は、中心の王城からドーナツ状に広がっていって、都市外縁部に近い場所。
治安を10段階で示した場合、下から数えて3か4の悪化が目立つところだけども。
この治安ってのは、城壁の内と外の隔たりの意味でしかない。
例えば冒険者となって、各地を巡る機会でもあれば。
王都外縁の貧民街は上級な治安だと分かる。
この地域は辺境のそれと比べて同じ10段階では5以上にあたる。
辺境の街は1か2であろう。
「恵まれてる?」
親王は、着物を着替え終えてメルリヌスに応答した。
決して奇麗とは言えない泉の水で、身体を濯ぎ。
麻生地で誂えた作務衣風に袖を通してた。
「この服だって、この辺りの市民が少ない物資で用意してくれたものだ」
トタン屋根の下。
隙間風が抜ける家屋。
敷布はとこどころ塵に帰りかけの茣蓙があって。
煎餅みたいな座布団が敷かれてた。
「ふふ、貧しいと思ったろ?」
見透かすように親王は嗤う。
いや、はじめてここに足を運んだ本人も。
知らず知らずのうちに過剰な強情を寄せてしまった事がある。
同情は他人を思いやることの大事な感情だけども。
過剰に向けるのは人格の否定よりも酷いことだ。
で、この部落の長老に怒られたクチ。
「だがな、ここの人は逞しいし、強い人たちだ!! 海牛族というかつての先住民の末裔なんだけども、多民族国家の東洋では珍しく、今でも迫害される流浪の民。神々が......勿論、彼らの信奉する海神さまな訳だが、指し示した土地へ赴くこと、それこそ世代を超えての悲願なのだと教えてくれた彼らに心の貧しい者などはいないんだよ」
なんて話してたら、長老が奥から現れた。
深々と平伏してきて...
「泉州王陛下におかれましては...」
親王はバツが悪そうに、額を拭って。
「よせよせ、この娘は私の伴侶でもないし...ってか、そんな礼を尽くされたら私の尻の穴がムズムズしてきて痒くなる。ほら、山芋を思わず素手で握ったような、そんな痒さだ......爺ぃなら分かるだろ、教育係だったのだから!!!!」
本当に痒そうである。
柔らかいところをダニでも噛まれたかな?
◇
泉州王は、王都外縁から各地方領の小規模都市へ身一つで訪れるようにしてた。
その身分がバレれば、少なくとも王権に対する武器になる筈なのに。
「ま、礼を欠けば...そういう扱いも受けるだろう」
なんて言って見せるけど。
現地の市民からは、
「金持ちのぼんぼんか、多少の苦労人かは見ればわかるもんですよ。冒険者のように各地を放浪して、およそ自分の腕ひとつで生きてきた雰囲気ってのは、ま...立ち振る舞いとかでわかりやす。でもまあ、初対面時は.......最悪でしたね」
例の。
日々の暮らしが辛かろう、儂が支援してやるから余の部下に成れ!!なんて言っちゃったらしい。
「え~、それ私のより酷くない?!!!」
「でしょー」
海牛族の若い衆の笑い声が響いてた。