- C 730話 台州よふたたび 10 -
「で、マイスター・マル?! 工程はあとどの程度?」
貨物船の中は、吹き抜けみたいな空洞。
生け簀みたいな海があって、その中に黒っぽい色の潜水艦が囲われているよう。
風や引き押しの波の影響がない海からのぞく、水上甲板に左右から端が掛けられて――強力な磁石で固定され、すでに多くの工夫が船上を闊歩してた。
聖櫃の副総長としてはまあ、複雑な心境だろう。
船内にまで踏みこむことは無い工夫ではあるけど...
良くよく見れば、すけ口に牙が多数生え揃ってる魚人たちのさま。
一見すると、
「やだ、こわ~い」
って声が挙がる。
聖櫃の桃色可憐な女性たちの声に。
魚人たちは頬?を種に染めながら――「え、怖い?の、もっと言って言って」と逆効果。
まあ、彼らにしてみれば、だ。
恐れがられるという事は、イケメンの勲章に等しいものなのだとか。
うん、これが異文化コミュニケーショ...
スリッパで殴られた。
奇麗に横回転で転がるボク。
あ、今、海に落ちました。
「ぎゃー!!!! マルがぁー!!!!!!!!!」
艦尾で作業中のハナ姉が叫び、
魚人たちが率先して生け簀に飛び込んでる。
ほら、あれだ。
みんな、何かに気が付いたんだよ。
ボクを助ければ“金一封”だと。
◇
「こんらぁ~! ヴィヴィアンがぁー!!!」
胸ぐら掴んで、啖呵切る義姉。
その腕をめい一杯に捻る女史。
ふたりとも引くことのない、脳筋。
「ちょ、ちょっと待ってよ、ゲホゲホ...」
ふたりともって、付け足したかった。
そんな雰囲気でもないけど。
ほっとけば殴りだすだろうし。
魚人の手を借り甲板へ。
もう、一張羅の作業衣がびしょびしょに濡れて。
「作業の進み具合が知りたいんでしょ? なんで、ボクを海に突き落とすかなあ。ほら、ちょっとした行き違いでなら予備動作も読めただろうに。マジ、唐突なのはやめてよ...受け身もとれやしないんだから」
ま、受け身が取れたとしても足を滑らせれば...。
結果的に同じことにはなるだろう。
それでも、滑り落ちるのと。
落とされるのでは覚悟も違う訳で。
「さてと。ヴィヴィアンさんの回答ですが。工程はあと幾分もありません、格納庫の再設計は終了しましたし、別の工房で再調整中の“特殊潜水艇”とドッキングさせたら晴れて、完成になる運びです」
聖櫃の連中が総じて、首を斜めに傾けている。
ああ、もう。
その話、もう一回するのぉー?!
◆
台州上空に差し掛かる、怪鳥ゴーレムの帰還――さらにその上空には“コウテイ・マンタ”級の巨影があるんだけど。陽光を遮って変な影を作らないよう、旋回地域をもっと北の方へ寄せている訳で。
まだ、観測中の彼らにはバレていない状況。
とはいえ。
観察対象が頭上に切り替わる可能性は、ほぼ無いだろう。
それこそどこかの馬鹿が、ニアミスでもしてすれ違いでもしなければ。
そう、そういうところは神さまの賽でも、振り切れない。
だって、信心深い信者の祈りは。
『ボクたちのホームを攻撃した不届き者を見つけさせてください』だった訳で。
魔界から来た、ボクたちのことじゃない。
聖櫃の皆さんの日頃の行いのせいで...
「灯火、捕らえました!!」
熱源センサーに、感あり。
機体の首元に設置された首輪がぐるりと回ると、カメラもひとつ切り替わる。
捉えた熱源を追尾して、撮影するためなんだけど。
水面が一面に見えていた。
「くぅ、やつらやっぱり潜水してやがるのか!」