- C 729話 台州よふたたび 9 -
改修工事は一筋縄ではいかず。
粘土以外の物資も多く必要になった。
表向きは老朽化した貨物船の修理に当てると、そんな理由で鋼材とか。
検閲をすり抜けられるだろうと高を括ってたトコが、ボクにもありました。
空の目じゃなく、
陸の目で見つかった感じ。
弾薬の補給は極力控えたし、修繕用の鋼材も軍用は避けたのにだ。
陸諜の目に留まってしまったというのだから、運がない。
◆
決め手は、サンプルで調達した錬金術の触媒たち。
品質は5段階で3の中間値。
アリスさんの勧めで、数百トン購入してみたけど。
ボクの技量をもってしても、品質変換後の粘土は“銀位階のHQ”止まりだった。
これが使えないって訳ではない。
むしろ、この手の粘土が安価で出回ったら市場崩壊が起きるレベルだってこと。
そう。
ボクの知らないとこで私欲に走った者がある。
ウナちゃんと、アリスさんにアロガンスの三バカだ――あれほど、売るなと言ったのに。
「業者の名は“呉 有栖”、北遼国の交易商らしく手広く商売をしているようだが、北遼に残るギルドには商隊の記録がないという...いかにも怪しいというのが第一印象だ。......とこで、かつて陸諜で教壇に立っていたという“大番頭”に問う。彼らはどこのスパイだと思うかね?」
台州にある領事館の武官が、目の前のスーツを着た男に尋ねている。
彼の傍らには自称『92パーセントほぼほぼ、美少女のスーパースパイ』と名乗った幼女があった。
「さて、何やらかしたんです?」
諜報部にも色んな部署がある。
調達課とか被服課に、会計課は経費の計算や支払いなどを請け負ってるんだけど。
ここは基本、しぶ賃だった。
「台州市場から仕掛けた、錬金触媒の市場操作だ」
大それたことを――大番頭は眠たげな表情で、そう思った。
身が入りずらいのは、足元にある“黒蜘蛛”の存在。
南カリマンタン島を無事に脱出できて、台州に逃げ延びた“外事8班”ら。
彼らを引率して、今、まさに観光名所を巡る約束をしていた。
本国から、早々に帰国せよって命令が届いてる。
台州から出る定期便がほとんどなくなった今季では、10前後に1便のでゆっくり変えることに。
そこで、幼女から「観光しよう!!」という提案があった。
「身に入らぬかね?」
「本国に戻れと言われてますからね」
嘘じゃない。
嘘じゃないけど、まあいいか。
「市場操作と言いましたが...」
産出国もバラバラで、銅位階品質の粘土が、各方面の市場から大量に消えた。
もともとオリハルコン粘土は、主にゴーレム生成くらいしか使われない。
ボクのように、コネコネ捏ねまくって鋼材にしちゃうような錬金術師の方が稀なわけ。
サンプルで世界数十か国の産地から十数トン分買い込んだら、まあ。
悪目立ちしそうな量になったわけで。
これを個人の買い付けでは無いように見せたかったんだが...
どうしてか、バレた。