- C 725話 台州よふたたび 5 -
「ロリ部長の成分摂取が出来たんで、あたしは満足ですし。いいでしょう、マルさんの回答に応えやしょう。そうっすねえ、簡単な物資なら...表の交易会社経由で仕入れは問題ないでしょうなあ。そちらの貨物船修理と言う名目になりやすか。...ふぅ、その物資ってのは、ソレだけの意味じゃないんでしょ?」
察しがいい。
アリス・カフェイン――表の職業と裏の職業が正反対なのは珍しい。
ウナちゃんの信頼は、仕事のみに限定される真性の変態。
趣味は女装、対象は両方で、好みはぽっこりお腹と丸い尻。
ついでハイソックスに半ズボンもストライクゾーンだとか。
広いなあ、守備範囲。
台州では旅行代理店と、貿易会社を経営してる実業家で通してた。
「社交界にもそれなりに...」
顔が利くとアピールしてる。
「オリハルコン粘土って用意できる?」
マナ鉱石の使用頻度は大量流通してた頃よりもなりは潜めたけど、ハイブリッド炉の研究成果により一定の需要が残ってはいた。
が、価格は高騰してしまって、一般での使用は減った。
マナ鉱石による便利グッズはもう高嶺の花となって――最早、王侯貴族だって私利私欲で使えるような代物じゃなくなってしまったという。
そんな希少な鉱石と比較すると。
オリハルコン粘土の方は、錬金術の触媒として軍に卸される代物ではあるものの。
グラム単位での取引額は然程、高いわけでもなく。
錬金術師が免許制になると...
認可されたところには集まる仕組みになっている。
「で...」
期待に胸を膨らませ...
義姉に揉まれた。
な、なんでー!!!
◇
アリスさんに調達を任せた粘土のサンプルがボクの下に来る。
いざ、粘土と対面の日が来ると変な緊張感が。
これは何だろう、お見合い?!
「マルは嫁には出しません!! 婿に入って貰いましょう!!!」
と、突拍子もないことを叫ぶ義姉。
ボクはじっとハナ姉を見てた。
やっぱブレないなあ、この人も...
「注文の粘土です。が、正直に言うと」
「品質が悪い、ですかね?」
分かる。
匂い、味、それに触感と重さだ。
口の中に入れた時も舌触りも悪かったし、含む水分も良くない。
「軍部で扱うレベルとの希望でしたが、やはり...そうですか」
話を聞けば。
中欧の心当たりのある国が、世界中の粘土を買い漁っているとのことで。
一般市場に出回る粘土は総じて、このレベルなのだという。
錬金術界隈も可哀そうに。
「粘土の調達か、わたしらも苦労したなあ」
ヴィヴィアン側も、その方面では苦労したことを自己申告。
使用したいのは数千トン規模。
集められたのはその1/10にも満たなかったという。
どんだけ買い漁ってるんだ。
そのために産地と生成質度で有名な地のものはあらかた生産終了に追い込まれた。
暫くは生産再開しないという事で。
「ひっどー!!!」
「ええ、今はこの偶にレアを引き当てる可能性の粘土が、市場の第一線に」
実のところ、品質を上げることは後発でも可能だが。
それをすると値崩れが起きる。
金まで品質を上げることは出来ないけど、銅を銀にすることは可能。
ただしコストが見合うかどうかが肝。
「まさか?」
金レベルのオリハルコン粘土と銅レベルの粘土を混ぜて、勘違いさせる裏技。
「くぅー勿体ない」
懸念通り、ウナちゃんが泣き始める。
混ぜる粘土の出所は、第2魔王領のもの。
高品質のオリハルコン粘土がただの土くれと混ぜ込まされて、穢れていく。
エリートがどんどんやさぐれていく感じか。