- C 719話 共同戦線 19 -
泉州王府に烏が舞い込む。
親王の戸外である密偵だけど、今は、魔術師との連絡に使われてた。
親王だってこのまま終われないんだわ。
元帥府は取り上げられた。
皇族に見放されたとは思ってはいないけど。
今までのように親身に話も聞いてはくれないだろう。
と、言うのも――聖櫃の白服組が後宮府と内通してたからだ。
「泉州王さまには辛いお話ですが」
なんて、前置きされて。
女王の側近は今や、白服ばかりとなったんだ...とか。
いや、もっと悪い話も聞いた。
女王の寵愛を受けた男娼にも、白服の者があるというのだ。
遠ざけなければ。
そう、思って動いたらこれだ。
親王は干されてしまった。
「と、いうと――干しマツタケになるんですか?!」
わりと素直に、キノコネタから離れられない子がいた。
◇
親王はひとり嗤い転げて、
「君は肝が据わっているのか、よほどの能天気か。まったくどっちだろうねえ」
世の中に悲観的だった彼女は、どこか投げやりなとこがあった。
白服が接触してきても、まあ、遊びが一つ増える程度にしか思っていなかった。
だから破滅的な誘いに乗ったわけだけども。
国を傾けるのは本意じゃない。
自問する――じゃあ、破滅的とはなんだったんだと。
「――己ひとりが朽ち果てるのが望みであって、他者が傷つくのは違う事なんだ!!!」
嗤う亡霊が目の前から晴れた。
そこにあるのは目が点になった総長のみ。
宮中衣装の中ではまあ、大人し目で地味な装いである。
「和装の似合わない子もそうは居ないんだが、君はその珍しい部類かもな。ローブ姿の...魔術師だっけか、彼とともに拝謁を願い出た時の洋装。うん、あの甲冑姿の方が様になってたな」
くすくすと微笑む。
悪気はないし、他意もない。
ただ見たまんまの感想で。
その意を総長も。
「とはいえ、あれ...偽物の甲冑ですけどね」
コスプレですって言ったけど。
親王には意味が理解できなかった。
「でも、殿下には助けられました!」
「ほう?」
自問するほど後悔している親王へ、少しだけ晴れる言葉を向ける。
「私を逃げるのが難しい後宮から救い出してくれました」
「うん」
確かに一時的な救出になるかも知れない。
烏たちも、連れ出した王府へ追手が差し向けられたことを告げてきた。
泉州王に害が及ぶことを恐れてた。
「以前、君の価値は高いようだ」
「でしょうね。魔術師の一派は古参の者たちですけど、白服の若い彼らと単純に比較はできません。出来れば争いを回避する方が賢明でしょう。聖櫃の実質的な司令塔は...彼です。――私は、組織の広告塔くらいしか」
小馬鹿にしたように親王が嗤う。
面白そうに、で。
「いや、精神的な柱だよ。君の存在が大きいから、東洋王国に囚われているというイメージであって欲しいんだ。恐らくは白服の大半は、君が囲われたから王国へ忠誠を誓わされた。そんなシーンの兵士もきっとある筈だ。この泉州王、こう見えても男を見る目は確かな方でね。潜在的な能力でもナンバー2の魔術師の方が上手なのだろう?」
深く息を吐いて、総長は小さく頷いた。
なんで自分なんかの下に居るのかと、嘆いても見た。
「...好きだからだろ」