- C 717話 共同戦線 17 -
エサ子も船の中を歩き回ってきた。
こちらは幼女を追い回す微笑ましい騒動だけだが。
強かなエサ子は、アロガンスよりも多くの情報を収集したと言える。
それは...
「この潜水艦は、オウルによく似ている」
だ、そうな。
◇
特殊巡洋潜水艦オウル級――グラスノザルツ連邦共和国海軍のごく一部で編成された、戦略級作戦遂行部隊とか認知されている第3の軍隊だと言われてた。
つまり、どこぞの国の海兵隊みたいな存在だ。
連邦共和国の立地からではなく、信条でもないけど名誉...
プライドから彼らは自らを『世界の警察』だと宣った。
さて、そんな共和国のオウル級とは何者か。
「並みの巡洋艦に匹敵する巨大さと、大型駆逐艦が積載してた主砲を艦載した...世界初の巡洋潜水艦。最大深度は約60メートル、水中速力は27ノット以上、まさに夢のようなハイテクな軍艦という訳で...」
エサ子が閉鎖された食堂で語る。
情報封鎖という訳じゃなく、たまたまボクらとヴィヴィアンさんの幹部連中だけしか居合わせない、特殊な空間になってただけだ。
ハナ姉は小首を傾げる。
「似てるってのは具体的に」
「う~ん、艦内の造りかな」
通常の潜水艦は大型でも、海上を奔る形状が採用されがちなので“クリッパー・バウ”のような船首が鋭角な傾きである。
こう、水上を切り裂きながら滑るような雰囲気で。
実際にも海上の移動の方が水中と比較しても、機動性が高いものだ。
が、帝国の魔女が遺したというものが魔導技術だけじゃないとする、やや耳を疑う話がある。
聖櫃らが各々に明後日を向き始めているのを傍目に遺しつつ。
「普通の潜水艦ってサイズ云々より、兎に角、狭いのが粗目立ちしたのを覚えてる」
エサ子だって女の子だし、仮身分とはいえ。
共和国には、NPCの両親と執事の居た、裕福な海軍一家に生まれた。
当然、年頃になれば士官学校へ入り、海上勤務を経て婿でも取るような――順風満帆なライフが待ってた、とか?
エサ子が唾を吐く。
「そんな退屈なのヤダ」
あ、いや。
そういう道も...
「――とりま、この軍艦はよく似てる雰囲気がある。まあ、娯楽室の位置は結構、後ろにあったし。保安局の待機所は逆に艦首側に。戦闘指揮所も...セイルの真後ろにあったんじゃない?」
ぎこちない動き。
これは当たったか。
いや、そうだとすると...これ。
「アロガンスがアクセル踏み込んで、追突させた格納庫らしき...たぶん真下がそれっぽくて。左右どちらかのサイドに開閉する事で、艦載した観測機なんかを飛ばして着弾観測とか。或いは周辺偵察するような施設だった...とかねえ」
あてずっぽうではなく。
オウル級の方も、まったく似た格納庫を持ってたという。
右舷側から隔壁が展開して、電磁式カタパルトから水上器を飛ばすという。
「で、なんだけど」
口笛が吹かれてるんだが。
これは心当たりがあるような素振りですが。