- C 713話 共同戦線 13 -
ウォルフ・スノー王国艦隊は、ほうほうの体で逃走。
軽巡洋艦から改修されたウイッチキャリアの搭載水上器は、全盛の3分の1未満へ。
敵前逃亡が叶った魔法少女たちも、空に上がった1割未満である。
心が折れた子が多数なので、仮に鼓舞スキルによるメンタルケアが成されたのだとしても。まあ、取り繕える表面的な部分へのテコ入れは可能かもしれないけども、そもそもの魂の芯の部分はもう難しい。
魔法使いってのは、心象を形にする技術者を指す。
こと、トラウマを抱えた魔法使いに克服する力が無いのであれば――
それらはもう、二度と空を飛ぶことはできないだろう。
さて。
重装甲水上器として上がってた、魔法少年の一組が今更ながらに帰還した。
彼らは、戦術爆撃チームとしての顔をもつ。
と、いうのも特務機関で開発された“耐物理攻撃防護盾”を標準搭載し、マジックシールドの亜種的位置にあたる非視認性の展開型術式で、施設破壊や艦艇への急降下爆撃を遂行する。
そんな命知らず....
もとい、勇猛な少年兵士たちだけども。
帰還した、いや出来た出撃組の疲労も、おそらくはピークだったように思う。
当然、少女たちの殿として浴びせられる銃弾の前に割って入ったものだ。
帝国の魔女が遺した遺産から、
つぎつぎに発掘される魔法技術を、錬金術とともに解き明かすサーヴィターの技術力。
展開式防弾盾だって、恐らくは欧州のどの国も貫通は難しく...それこそが地震であるんだけど。
外骨格装甲から少年を引きずり出す、教官は「衛生兵ー!!!!」なんて叫ぶ。
引きずり出した子の腕は肘からぐちゃぐちゃに。
「物理的な装甲までにも衝撃を与えるか?!」
10ミリ近いセラミック構造の装甲を叩く。
幸い貫通はしなかったけども。
そこに弾頭がへしゃげた弾丸がめりこんでいる。
よくみると、20ミリちかい弾丸には小さな文字が刻まれてて――古代文字、意味としての直訳なら『敵を穿て』なので、これが兇悪な威力に繋がってた。
◆
ウォルフ・スノー所属の少女たちは、シュリーフェンの飛行甲板に転がり込むよう降りてくる。
夜間飛行訓練なんかも特にやってた訳ではないけども。
箒の柄に仕込まれた保安灯が蛍のように照らしていて。
誰かの誘導でもあったのだろうか、
つぎつぎにと、降りてくる。
昼間ならば、ざらついた飛行甲板で転がっても医療スタッフと整備兵で、彼女らをひとりひとり担架に乗せられるんだけども。陽が落ちた後もわらわらと降りてくるので――「飛行隊長殿!!」教官のひとりが少年たちを空に上げて、少女たちの手を引けるよう進言してきた。
まあ、これが精いっぱいのことなんだけども。
「いあ、これは」
伝声管の方を見る。
蓋は開けてあるから、聞こえているとは思う。
「俺に投げるのか?」
「艦長だからな」
こういう時ばかりにって愚痴が聞こえた。
救助活動に入るという事は、ボクたちの追撃に一区切りつける事を意味する。
ボクらとしても、ちゃんとついて来て欲しいところなんだけども。
「ああ、分かった。艦隊はここで、ひとりでも多くの友軍を助ける!!」