- C 704話 共同戦線 4 -
「そんな実験、聖櫃はどう感じたの?」
ボクは逆に問いたくなった。
彼らはどう感じたのか、と。
「市民は群れる羊だと捉えるか、社会性のある狼であるか...ですか?」
うーん。
聖櫃さん達ってそんなこと考えるの。
ボクのひらめみたいな、苦痛さがヴィヴィアンに伝搬する。
「争いを起こさない世界は、理想です。争いは何故、起きるか...自分と相手では違うからが、一番身近な種なのでしょう」
他者を理解する上でも利用する。
違うを理解するって学問の方かな。
手を見る。
自分だけであれば、比較の仕様が無いから。
これが普通だと思う。
ハナ姉と掌を合わせてみる。
バレーボールをしてたってのもあるし、体格もずっとボクより大きな女性だ。
故にひと回りは大きく感じた。
「いあ、間隔じゃなく現実的に大きさは違うよ」
窮屈な体勢だけども、
ハナ姉がボクと手を合わせてくれた。
が、その直後――「この手はしばらく洗いたくないなあ」
理由を聞くのが怖いけど。
「そりゃ、義妹とのスキンシップで」
「ちょ、それがどうしたんだ?」
ヴィヴィアンも、思わずカメラに手を差し出しかけてた。
思い立って、腕を頭上まで挙げて結び直してる。
「ボクの指は短くて、ぷにぷにしてて太め。赤ちゃんみたいだって...言われるたびに心の隅で、傷ついてたんだけど。他人が見たボクへの感想であって...実際に乳幼児とは似ても似つかない訳。だってそれよりは大きいでしょ」
ほう、なんて声が漏れる。
「比較すれば、指の細い人、もっと太い人、拳ダコとか傷がある、色が濃いとか白いとか...違いはそれぞれにある。差別は、さまざまに生まれてる」
母の実験は、長命な支配者と命限りある人々の差を生ませた。
代を重ねればより、濃密な差が生まれる。
長命な支配者を世話する人々と、それ以外に。
もっと加速すると、
支配者と共に仕事をする人と、更に陳情を取り次ぎ、仕分けしてとか。
もう、宗教みたいのもあるんじゃないかなあ。
◇
モニターの前の連中は、
繋いだころと比べるとダレ具合が、まあ。
聖櫃は、人々から自由意志を取り除いて、飼育小屋にあることが当たり前の“ひつじ”であって欲しいと願っている。社会も統一されたひとつの箱みたいなものが望ましいと考えてた。
ヴィヴィアンが異を唱えても、
幹部連中からすれば、副総長のご乱心としか見えない。
「そうかなあ」
茶を啜るなか。
もうひとつの回線がつながった。
三者会談のようになる。
相手は魔術師だったんだけど。
「な、なんだ!? これは!!!!」
ウサギちゃんと化かし合い後に、再び、似た連中と。
「ヴィヴィアン?!」
「いあ、色々あって...彼らも、魔術師のトコついて来てもらう事になったから!!!」
どこの底からなのか。
魔術師の濁声が聞こえた。
うん、唸ったからねえ。
「どうしてだ!」
「どうもこうもなくて...体当たりされて」
ボクが前に出ようとすると、
仔細は、副総長から。
膨らんだエアバックから乗り出す、ウナちゃん。
「故あって、」
「だから、体当たりしたのだろ」
はい、その通りです。