- C 701話 共同戦線 3 -
「どこがと問われると、流石に言葉に詰まるが。しいて言えば、雰囲気だとしておこう」
聖櫃騎士団が、世界の在り方について行動を起こした切っ掛けは、ボクの母“司馬一恵”の存在が大きいと、彼らは告げる――神のような存在で、覚醒を促されたのだと...言うのだ。
そのあたりは、ハナ姉も納得という顔をした。
これはあくまでも。
思考実験のひとつにすぎない。
はじまりの人類...
テスター2万人の意識をひとつの優れた指導者によって、統括管理されている箱庭実験が行われた――これが最初のモデルワールドだったようだ。とはいえ、あくまでも机上の空論が基にあって、テスターの意識はそれぞれ自由に『ハイファンタジー・オンライン』という、オープンワールドを堪能したというのだけどね。
さて。
ボクの母、兎に角、自由人な彼女は...だ。
忠実で完璧な“独裁者”を作り上げる。
彼が支配するのは、
1)優秀な意識による箱庭経営。
2)すべての人々と情報を共有した、統治。
3)徹底した管理社会。
残念ながら、すべて時、いずれかで蜂起された。
パターンは3通りじゃないけど、代表すると...こんな感じ。
で、文明が芽吹かないって事にやきもきすることになる。
◇
最近の研究では、
水源のほとりで生まれた集落が“都市”に至るまでには、異文化交流があったとされる。
定住地を持たない“遊牧民族”との遭遇がそれ。
定住者には、食料がある。
遊牧民には、それ以外のものがある――例えば、木材だとか石材、青銅などの工業品に...集落だけでは不足しがちな品物なども、遊牧民は持っている事があった。彼らと交流することにより、物々交換が始まって、交易、つまり文字が必要になる。
そうして国家が誕生していくのだという。
かつて世界の中心だった『オリエント』、歴史の話。
母の実験は...
宇宙人でも飛来してきて、彼らの手によって第一文明および人類が作り出されたような、奇天烈な世界だったんで破綻したんじゃないかと思う。指導者たちは理解しがたい技術で国を富ませていく...神がかったなんて生易しい。
天候をズバリと予想し、
ここ掘れわんわんとばかりに、必要な鉱石を発見し。
溶鉱炉で溶かして精練するのだから。
え? 何が起きてるの???
と、多数の人々は訝しみ、怖がった。
優秀な統治者は独裁者である。
母の意思、啓示を受けた特別なAIだったんだけど。
理想の為に長命でもあった。
これがイケなかった。
――と、ボクは今でも思ってる。
「おやおや、なんでそう思ったかなあ?」
ハナ姉の顔がボクの頭上にある。
砲塔から身を乗り出したまま、踏ん張ってる様子なので。
荷台のシートでごろごろしてるボクとは、アクティブなところで対照的。
「市民の為に手を尽くしているのは分かるけど。何年も経つのに...市民と為政者の関係って変わらないんでしょ?」
モニター向こうのヴィヴィアンも首を傾げた。
「為政者は何歳だっけ、まあ20代や30代のままで、ひとつも老いることは無い。一方、市民は次の新しい世代が順繰りに切り替わっていくのだから、年齢と言う壁、或いは格差を感じているんじゃない? 自分たちは...そちらに立つことが出来ない」
「そちら?」
「国政に関われない」
すべてを知る者についていくのは道理だけど、気持ち悪いこともある。
神様だって置換しても、そこにある人間っぽい人から意味も分からずに“罪”を問われることもある。
悪い事をしたかも知んないけどさ...
言葉が理解できないのに、一方的に罰せられたら...理不尽だと思わないだろうか。