- C 699話 悪役令嬢の進撃 29 -
東洋艦隊を指揮するは、
聖櫃から分派した元帥府の白服組。
いわゆる戦争がしたくて機会を伺ってた、狂信者。
高い技術と、広い知識。
圧倒的な武力を併せ持つ――想像しなくてもいい。ただ、手元に圧倒的な暴力があれば『心が痛むことは無い』と信じる者たちによって振るわれるソレは、悪意のみである。
白服組にとっての目的は、武器があったから使ってみたかった。
淡白すぎるけど。
純粋すぎる。
持ってた玩具を壊してみた――にちかい感情。
これ、ヤバいよね。
◇
艦隊の揚陸させる兵力は、10万人。
帰還させてた陸軍からの目を盗んで、回収し再調整した鬼人の兵だ。
薬物投与に、精神汚染なんでもやって人形になった。
「これで本当に戦えるのか?」
同じ服の中からも、不安くらいは口から出る。
木偶では困るのだ。
ちゃんと技術に見合った働きが、戦争が出来なくては困る。
そうした手合いの不安だ。
「ああ、大丈夫だ。今はスイッチがオフになっているだけ。上陸する前からスイッチを入れるバカも居まい...スタミナを削って燃え尽きたのでは話にならんし、目も当てられん。また、賭けたコストの回収も、な」
ゲーム感覚。
やっぱりこの人たちは、怖いね。
「先陣を切った連中は、我々を通すための捨て石に過ぎない!!」
「怖いな」
1万人足らずで、上陸させた。
率いる将帥も催眠による効果で、ひたすらに前を向くよう設定された。
「南カリマンタン島は難攻不落の要塞島。噂と、実が伴ったのは最近のことだ。北の不毛地帯で、散々、魔獣と迷宮でコケにされた身だ。鬼人のみなさんも同胞の仇のひとつは取りたいだろ? 取らせてやろうって...優しさだ」
「ふふ、優しいものかよ。このイカレ戦バカが」
「――っ、お互い様だろ」
吸いかけの煙草を指で弾く。
トーチカの見える揚陸地点が目の前に。
もう、派手な戦闘が始まってた。
◆
コウテイ・マンタ級の機首に備えられた、カメラにも島の戦闘を捉えることが出来ている。
ズーム最大まで寄せて、カラー映像。
「ご覧になりますか?」
オーダーは出てない。
記録士からの問いかけで。
「いや、ウナさまやハナ殿に直接影響がないというのならば、私が見る必要はない!!」
ブリッジの艦長席にあるウサギちゃんが尻の位置を替えた。
長く座り続けると、どうも尻尾もだけど。
尻が痛くなる。
クッションは置いてあるけど、やっぱりダメっぽい。
「ドーナッツ型もダメだな」
クッションの話のよう。
「...となると、もうクロワッサン型しか」
試さなくても適さないことくらいは分かる。
これまで多くのクッションと時間を共にした――最早、彼らも戦友と呼べる。
「いいクッションとは、何かなあ」
目の端に涙をためての深い問。
長時間座り続けて、尻尾のふわふわ感もなくなった。
職業病だと諦めてたが...
「艦長の尻尾はクルーの癒しなんです!!!」
説得されて、ブラッシングしてもらうようには、なったけど。
「マル殿からの秘匿通信です!!」
ちょっとブリッジがざわつく。
「モニターか?!」
「いえ、テキストで...迎えは要らない。支援砲撃を頼む...だ、そうです」
「は?!」