- C 695話 悪役令嬢の進撃 25 -
抜け毛損と言う言葉があるなら、アロガンスの禿げはそれだ。
まあ少なくとも、自業自得ではあるのだから、生え薬だけはボクの方から都合をつけておこうか。
装甲車の中は一種のパンク状態である。
そりゃ当然と言えば当然。
百名くらい居そうな元409の隊員たちが。
バンパイアになったもんで『じゃ、みんな無事に脱出成功! そういう訳で解散!!!』なんて無責任なことが出来るはずもなく、ゾンビだった彼らを進化させてしまった罪は取らなければならない。
それは、彼らの協力を仰ぐときにも取り付けた約束。
住処を用意してあげることだ。
「日光への抵抗もできるんってなら、このまま人の世界でも」
事情の知らないアロガンスが口を挟む。
確かに自力で生きていくことに変わりはない――が、元人間がゾンビになって後にほぼほぼ進化の頂点足る“ロード種”へと至った奇跡は、連邦の特務機関が長年研究を重ねてきた正に極致たる地点なのだ。
この事実を知る者は今のところ、301のみだが。
「全滅したんなら」
そう。
アロガンスはちょいちょい腰を折る。
「これは聞き齧った話だけど。サーヴィターという連中は、魂魄に縛りを縫い付ける実験もしてたようなんだ。肉体は、肉片のひと欠片でもあれば再生できる性能があり、再生された肉体に魂が引き戻される...これは、何処にいようとも...だ、そうな」
獄門牢とかっていう束縛呪文があった。
魂を縛るのではなく、肉体を任意の空間に幽閉するような類で――気絶に近い効果があったけど、実のところはすごろくの“一回休み”に似たものだ。
実用性は低く、成功率もすこぶる運にすがる。
応用として誰かが...
「テイムに使ってたな?」
そう、ハナ姉の記憶が正しい。
横になってるのに悪いね、考えさせちゃって。
「それくらいしか使い道のなかった魔法だったけど。研究熱心な魔法使いもいたもんだね、恐らくは獄門牢に似た性質ので、肉体と魂の間にアンカーが落してあるんだろう。これで、連邦はコロネさんたちの事を知ったと考えていい」
トランクの戸を閉めるウナちゃん。
一応、スペースの状況に空調とか、或いは、食料に飲料水なんかも確認しておいた。
不死者になった御蔭で幾分かの空腹にも耐えられるようになった、とか。
「こっちはOK!」
エサ子も余分な物資を棄ててた。
自衛用の弾薬も、必要最低限は残したもんだけど。
「やっぱり納得が」
「人里から離れてひっそり暮らすと言っても、今の時代は人外には狭い世界だよ。前人未踏だという地域は確かに未だあるけど。それもだって、北米や南米は竜族の縄張りだって事で、極力手を出さない事で暗黙のローカルルールで縛ってるだけ。...それこそ、人類がその気になれば海中や宇宙にだって進出してしまうに違いない!!」
ボクはそう思ってる。
魔法なんて言う、科学的に解き明かせないものは残ってるけど。
それだっていつかは“数式”で解いてしまうのだろう。
だったら、彼ら。
コロネさんたちの子孫がサーヴィターに補足されるのも、時間の問題って事に。
「ああ、そうかい」
積み荷が増える事への不満。
コロネさんたちを見放せみたいな事は言ってないつもり。
分かってるよ。
イエスマンばかりじゃ困ることぐらいは。