- C 694話 悪役令嬢の進撃 24 -
屍鬼の発生は、301の投薬した死後ルーレットによって覚醒する、実験薬の成果でもある。便宜上、彼らは“覚醒進化薬”なんて言葉をチョイスして使ってた。
本来の生物とは、生き残る環境と神さま裁量によって、進化先が決まることになる。
ほとんどの場合は元来の『生存本能』に従っている訳なんだけど。
人工的に生み出される生物の進化先は少ない。
今回のルーレットは死鬼のみだったのだろう。
さて、噛まれた者の辿る末路とは。
生きながらに陽を嫌う者になる――単なる死者とかゾンビとはひとつ決定的に違う点があって。
こいつらは食事の為に、何でも襲うのだ。
バンパイアと同じで血が活力源であるが、肉も食うし、ゾンビでも肉が付いてるのなら捕獲対象。
兎に角獰猛な存在だ。
「その制服にその腕章、視たところ連邦んとこのマッドで、サイエンス的な連中かい?」
前かがみ、肩から腕がぶら下がってるだけのような姿勢。
大股に足を広げて、髪も肌もボロボロな人ならざる者。
噛まれたのは服の上から、肩近くの腕と手首か。
咄嗟に腕を出してしまったのだろう。
「哀れだな、実験動物に噛まれて。自身も、ソコに落ちるか」
落胆したようなアロガンス。
一応、慰めたつもりであるのが、彼らしいというか。
これで殴ってもバチは当たりませんようにって祈ってもいる。
◇
装甲車は、教会の近くに止めた。
ここくらいしか見晴らしのいい場所は無い。
遺跡の方は崩落が始まっているとのこと。
「ウナさま、逃げ延びてればいいが」
一呼吸つく。
腕をぐっと腰元まで引いて気合を溜めた。
「褌じゃねえのが締まらねえが。流石にゴリラみたいに怖い姐さんが居るパーティだからよ...俺も未だ死にたくはないって訳よ。だからよ、てめえらには悪いが木っ端になる覚悟だけはしてくれや!!!」
斜に構えて、間合いをとる。
アロガンスは大剣の剣士でもあるけど。
無手での格闘家ジョブも持っている。
こちらは、このアバター特性のスキルとなっていて。
ジョブレベルは常人並みだが、ステータス無双ってやつで押し切る予定。
構えた頃から悪寒はある。
目の前に迫ってた死鬼たちも、気のせいか。
遠くに見えるような気がするんだが。
「おや、おやおや」
気が大きくなった彼はひとつ。
とうとう、俺様のオーラが漏れ出たか。
ステータス無双とは、ふふ、こんなものか――なんて思ってた事もある。
「ゴリラとは? 誰のことだ」
幻聴かな。
耳当てはするべきだったか。
「それを聞いてどうする?」
アロガンスの背に鳥肌が。
腕の震えは気温のせい...
見上げる空からは、実に暖かな陽光が降り注ぐ。
「くぅ~」
タイミングが悪い。
「ご、ごめんなさい。死んでお詫びします!!!!」
振り返りざまに平伏するアロガンス。
緊張と過度なストレスにより、髪が抜け落ちた。
ごっそりだ。
手ですかなくても、勝手にハラハラと散っていくような。
「忠犬だったとして、不問にしてあげます」
ハナ姉も余裕はない。
だって、教会の地下にまで伸びる地下墓地遺跡へ、脱出できたのは間違いなく義姉の力なのだ。
使いすぎて今にも倒れそうな状況。
アロガンスに1ミリも指は動かせない。