- C 692話 悪役令嬢の進撃 22 -
さて。
“湖の乙女”号の方は、同じ海域を何度も旋回しながら航海中。
待てど暮らせど、人は来ず――1日に30発近く射撃して、挑発に乗らない中欧艦隊。
素晴らしく慎重で、しかも思慮深く度量の深い提督だったか......ヴィヴィアンは、海図台の上でしなびれた茄子みたいな姿になってた。もしも、エサ子か或いはウナちゃんが居れば、茄子の気持ちも察せずに、指でつんつん突いていただろう。彼女らもまあ、容赦がないしねえ。
そんな情けない姿だった。
「反応は?」
(中欧)艦隊の位置確認。
「動きません」
ダメか。
資料では“頭に血が昇り易い”とあった。
安い挑発で、爵位を失いかけた苦い記録がある者が、提督として赴任してた。
「旗艦の両艦長が相当の切れ者か、或いは臆病者か」
後者だとすると、
追い詰めすぎると厄介かも知れないとか。
艦隊が動かない事には、安全に東洋王国の海域に入ることが出来ない。
現場はには、息を潜ませている情報収集艦っていう名の潜水艦が多数ある。
これは、魔術師からの情報だけど。
流石に部外者だからと、潜んでいる位置までの捜査は難航を極めた。
情報統制。
元帥府のかの親王が、ではないだろう。
彼女にはもう権限がない。
ともすれば...
《飼い犬に手を焼かれるか》
魔術師の手元から離れた、異分子たち。
聖櫃が抱える技術はそのどれもがオーパーツである。
持ち出された装備はただ、ひとつ。
神代に口伝で遺された一節。
一夜にして都市を塩に変えたという、特殊砲弾だ。
◇
すでにオウル級が、その威力を東洋に見せつけた隠し玉――決戦兵器“ミョルニル”。
帝国の魔女が国内に遺した手記から発掘された、オリジナルと比較するとやや性能に劣るところがあるが、弾頭に属性魔法紋様を描き加えるだけで“光属性”から“火属性”或いは“水属性”など、さまざまに変容させることが出来る豊富な知識があった。
すでにマッピングも済ませてあるので、相性のいい属性同士の合体魔法なんてのも。
容易に創造できるレベルであったわけだ。
「共有はよかれとの...総長の考えだったが」
モニターの前に再び、ヴィヴィアンがある。
暇になったのでテレビでも点けるように、魔術師の顔を海図台の上で寝そべってみてる。
「ふん、心ここに非ず、か?」
「あ、うん」
本音を言えば、総長とイチャラブしている魔術師と会話する気はない。
が、こうも裏目に出ると。
「悪役令嬢ロールで、方々から憎まれてた筈なんだけどね」
「なんだ、なんだ! 唐突に」
意味不明。
ま、令嬢ごっこは経緯くらいは魔術師に伝えた。
で、彼からも深い溜息が漏れた。
「何やってんだよ、お前は」
自覚はあるんだから、説教は聞きたくない態度が素に出る。
傍目からでも分かるけども。
やっぱり口に出したくなるのは、人間だからだろう。