- C 689話 悪役令嬢の進撃 19 -
空調システムってのはわりと頑丈だ。
いや、そういう施設が、だ。
例えば...施設内で火事が発生する。
消火剤を撒けばいいけども、それでは無傷の機械にまで悪影響がでる。
そういう時に、換気扇は室内の空気そのものを輩出して、真空化させるという。
ま、やり過ぎれば――また、壊れる原因になるんだけども。
「内側から壊すとしたら」
いや、それよりも。
部屋の空気が減ってる可能性が怖い。
一度に百人近くが入ってしまっている。
「この人数でも余裕のように思われますが?」
顔色の優れない兵士たち。
元ゾンビで、今不死者ってだけ差し引いても、顔色がいいとは思えない。
こんなもんですよって...
元々の不死者が近くに居て、そんでその彼らが浅黒いんだとしたら。
そう、それはボクの気のせいで済む。
「吸血鬼が宇宙服も無しに、或いは海中へ潜水服も無しに呼吸...いや、これは馬鹿げてるけども。生存活動が出来るというのならば、ボクの取り越し苦労かもしれない。でも...」
長身のハナ姉を見上げるように、低身長のボクらが膝から崩れた。
気にはしてたのに。
足元から空気が無くなった?!
◆
陣地にて。
気を揉んでたアロガンスの背中を押したのが、エリンギみたいな頭の船長だ。
シイタケだのタケノコだのという頭の船長が多い死神たち。
「いいのかい? 鍋の具材の旦那???」
「鍋には、入ってないが。...気がかりなのだろう?」
押した理由は、至極単純で簡単な話だ。
この数日――
陸上に押し寄せるゾンビも湧かなければ、それを襲う魔獣たちが消えたことだ。
「嬢ちゃんたちは足を無くしてる頃だろ? この状態が...作戦の成功だと考えれば、アロガンス将軍の行くべきところは自ずと、ソコであろう!!! 気を付けて」
シイタケ頭の船長も、だ。
ただ、見回すと。
アロガンスの目が細くなる光景が。
こう、砦周りが殺風景と言うか。
「それじゃあ...達者でな」
「ちょ、待てよおっさんたち」
海の死神を捕まえて、
おっさんとフレンドリーに声を掛けられるのは、世界広しと言えどアロガンスだけだろう。
魔王十席筆頭、フンドシの将軍...肩書だけでもその武威が轟く大人。
「あ? ああ。帰るんだよ、もうこの海は静かになった」
死者がざわめくというのならば、
島の東側を指さして...
「あっちの水死体どもの回収が急務だろう。陸の死者はそれこそ...ほれ、首のない騎士のヤツが居るだろ? アレに任せておけば。今夜中には奇麗に掃除して帰っていくだろ。そういうのがマメな面白みのない男だからな!!」
「首なし騎士には、男しかいないのか!!?」
タコ頭の船長が中腰で踏みとどまった。
抱えあげた荷物を水夫に流して、
「いや、女性騎士もあるが。あっちは、此処で言うのも憚れるが...あの長身で胸の大きな、腕っぷしの良かった娘よりも“化け物”だぞ? 悪いことは言わぬ。これは年長者からの有難い忠告だとして...アレに手を出すなよ?! マジで」
乳房はウリのようにぶらさがり、指に吸い付くような“たわわな実”なのだが、如何せん常識の通じぬ堅物ゆえに~とか鼻歌なんだわ。
そんなの聞かされたら。
好色家のアロガンスに灯が付かない筈は無い。
例えば、隙あらばで...エサちゃんの蒸れた足を嗅ごうとする。
いや、潜水艦から揚がった後、二人旅で――そういう仲になったようだ。
うーん...これはNTRなのか。
んで、本命のウナちゃんにはちょっかい出すことなく。
死も覚悟して、ハナ姉の腋の下を嗅いだって言うんだわ。
『フルーティ! たとえるなら、柑橘系の』
そこで意識が飛んだとか。
顔面殴打。
リスポーン地の装甲車内で目が覚めたという、死んだんだ。
イカ頭の船長が触手をうねらせ、
「行くなら早い方がいいぞ、将軍。上の連中も異変には気が付いているようだからな?!」
上ってのは、飛行中の“コウテイ・マンタ”たち。
ウサギ艦長らだ。
通信を繋げると、
『今、遺跡周辺の崩壊を検知した!!』
だ。