- C 687話 悪役令嬢の進撃 17 -
格納庫では機体のチェックが最終段階に到達。
整備班のすべてをかき集め、急ピッチで水上偵察機としての“怪鳥ゴーレム”に仕上げたところ。
整備隊長曰く、
『急場しのぎってのが良くありませんね。もともとコイツは、中距離の連絡機だってことです...まあ、確かに強力な無線通信器から、光学記録器なんかも載せちゃあ居ますが。だからって、本職の偵察機さまにゃあ叶いませんぜ?』とか、なんとか。
整備隊長はこう言いたい。
何があっても、責任はとれませんって。
ボクだって急ピッチな改造には、クライアントにそう正直に告げたい。
いや、言うべきなんだ。
結局、こっちに難癖がつけられるから。
他にも急ぎ働きには付き物の弊害ってのもある。
所謂、意図しない故障だ。
だから責任取れませんなの。
「水上器たちを無理に上げるよりかはいい」
急遽抜擢された機長には、飛行中隊長の教官だ。
子供たちの父親的存在でもあって。
倉庫に眠ってたゴーレムの使用を強く推薦してた、者のである。
「そりゃそうだが、それでも...中継器は必要だぞ?」
整備隊長からの言葉。
少女・少年たちの装具の手入れも、彼らの仕事で。
防寒具や魔法小銃の霜取りだって、彼らが丁寧な仕事で彼女らを送り出してる。
天気図なんかを見ながら、
『寒気の流れが不味い、カイロ増し増しだ!!!』
とか。
起毛の多い外套に、顔まで隠れそうなマフラーなど。
至れり尽くせりで装具が用意され...
空に送り出されてる訳なんだけども。
最近の空は異常気象がつづく。
赤道直下のこの地域――1000メートル上がると、外気温は地表のマイナス10度に。
例えば海上は20度だったら、1000メートルは10度ってとこ。
だけど、3月も終わりだというのに。
「今日の海風も冷たいな」
平甲板の上にある水兵たちの姿は雪だるまのよう。
海が静かに荒れてるようにも見え。
何気に白い泡が飛ぶ。
誰かが雪? なんて呟いてるけど。
そうじゃない。
赤道直下で降ってたまるかって。
「この寒い日に水柱なんか立てやがって!!」
正午前までに4回の射撃。
いずれも6発ずつで。
「こちらの位置、分かって撃ってるな」
操艦ブリッジでの見解。
海図にコンパスで範囲を絞ってるとこ――そろそろ“湖の乙女”号の位置がバレそうなんだけど。これが微妙な誤差修正もしてあって、逃げ回ってる状況。彼らが上げてる四枚羽の観測器がいい仕事をしてた。
こう自立浮遊。
短身砲のメリットは、防水加工された砲塔に砲身を引き込む時間と手間が短くて済むという。
デメリットは、糞集弾なのと射程が短くなること、破壊力がデフォルトの武装より減衰する事。
火力を失って潜水艦としてのメリットを残した。
っても、155ミリの砲塔はそれなりの重量がある。
“湖の乙女”号の排水量は、そこら辺の巡洋艦以上に重い。
船体構造が画期的でないと...
ふふ、水中での運動性は鈍亀っていう。
◆
ボクたちは、点検用シャフトの道すがらで迷子になってた。
貰ったデジタルマップを物理的にくるくる回す、ハナ姉がある。
なんか昔に、
“...地図が読めない女”とかなんとかって本があって、そんなのが思い出されるような光景に。
「ハナ姉、」
「ちょっと待て。この道が...」
コロネさんが覗き込み『それ、そこ...現在地です!』って、指さしてるけど。
ハナ姉が向きを変えたんで見失った。
ちょっと待ってよ。
なんで地図を動かしちゃうの?!